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「ばかばかしい」  M国で恐るべき計画が進行中であることが発覚し、軍部が大騒ぎしている中、その報告書に目を通したD国の陸軍感染症研究所所長、アルフレッド・ノースマン博士は、書類を机の上に放リ投げると、そう吐き捨てた。                 * * * * *  M国は独裁国家であり、その国家元首は自らの地位を守るため言論統制を敷き、国民の監視体制を強めていた。信仰の自由は制限され、国家に対し批判的な発言をする者は、反乱分子として排除された。  M国で謎の動きが見られたのは今から15年前、M国が領有を主張している洋上に浮かぶ無人島に、軍事衛星が遺伝子実験施設と思われる建物が建設されているのを発見してからである。それまでにも港、ヘリポート、住居といった建造物が建設されていたが、これらは主に領有を主張するために定住させる住民が生活するためのものとみられていた。遺伝子実験施設は組換え生物の拡散を防ぐために、建物を陰圧に保つ必要があり、そのために一般的な住居やオフィスと比較して、はるかに大規模な空調設備を必要とする。M国内で建設された他の遺伝子実験施設との類似性から、軍部はその建築物を遺伝子実験施設と断定した。  問題は、なぜ周囲に何も無い無人島にそのようなものが建設されたか、ということである。軍部は当然のように生物兵器を警戒した。万が一事故が起こったとしても、無人島であれば拡散を最小限で食い止めることができるからである。諜報部は必死になって、その遺伝子実験施設で何が行われているのか探ろうとした、しかしながら、10数年に渡って何の手がかりもつかめないまま、時が過ぎていった。
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