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生物兵器そしてクローン技術を専門とするアドバイザーとして招かれたアルフレッド・ノースマン博士は、会議の席でコメントを求められて発言した。
「警戒を強めることには反対しない。」
博士はそう前置きした上で、こう続けた。
「だが、この計画は間違いなく頓挫するだろう。」
「放っておけばいい。」
会議は世論に対する影響を考慮して極秘とされた上で、クローン兵部隊計画が進行中の島に対する武力行使は、確たる証拠がつかめるまで保留とされた。
* * * * *
それから10数年が過ぎたころ、M国は突如崩壊した。独裁体制は打倒され、緩やかな民主主義の体制が敷かれた。いくつかの少数民族国家が相次いで独立を果たしたことで、M国はかつての力を失った。そして、体制崩壊のどさくさに紛れてD国に亡命し保護された、島で研究に従事していた元研究員の証言によって、クローン兵部隊編成計画の全容が明らかとなったのである。
亡命した元研究員の証言によると、島では確かに“ラクシャーサ”をオリジナルとするクローン兵部隊編成計画が行われていたようである。クローン兵のオリジナルとなる人間の選別は、かなり前から行われていたらしい。軍の中から優れた身体能力と知能を有し、従順かつ勇敢な性格を持つ男女の兵士を選抜し、強制的に結婚させた後、生まれてきた子供をさらに選抜する。そうした非人道的な選別を繰り返した結果、軍部の要求を満たす兵士として、最終的に選ばれたのが“ラクシャーサ”だという。なお、クローン兵の作出にあたっては、“ラクシャーサ”の全ゲノム解析が行われ、形質的に不利となる恐れのある遺伝子については、あらかじめ修正されていたそうだ。
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