1.大好きなあの人を想う

2/14
208人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「アンタね、こんな所で麻薬なんてうりさばいて良いと思ってんの?」 私の怒声に、金髪ピアスのその男はあぁあん?と、不機嫌そうな顔をあげた。 麻薬を売りつけられそうになっていた、弱気な男子高校生がその隙に脱兎の如く逃げ出すのを、私は視線の端で捕らえていた。 「てめぇのせいで客に逃げられたじゃねぇかよ」 ぁあん?と。 金髪ピアス、長身のその男がダメージジーンズのポケットに無造作に麻薬を押し込むと、私を睨みつけてくる。 学校指定のブレザーを品よく着こなす私を見て、彼がいきり立つのも無理は無い。 私だって出来ればこんな身元のばれる服装で、麻薬の取り締まりなんてしたくはないのだけれど、そうしなきゃいけないときだってあるし。 今、まさにそのときだったのだから仕方が無い。 「どう落とし前とってくれるんだよ、このガキがっ ああ? その身体でとりあえず、前金だけでも払ってもらおうか?」 怒りに燃えた目をした、ちょっとヤバめの男の腕が私の胸元に伸びてくる。 ばしりとそれを、ぎりぎりのラインで学生カバンで叩いて落とすと、踵を返して走り出す。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!