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+++++都side+++++
まさか、このタイミングで大雅に会えるとは思ってなかったけれど、さよならと言えたから良かったかな。
私はぎしぎしと痛む気持ちを抑えて、まだ残っていた荷物を急いで箱に詰める。
夕べ、久しぶりにパパが帰ってきて、『危ないことにばかり首を突っ込んでは命がいくつあっても足りないよ』、なんて彼らしくないまっとうな発言をしてきたから、だったらパパの希望通りおとなしくしておくから別の住処を提供してほしいと頼んでみたのだ。
だって、来月末、大雅の妻が決まるのをすぐ傍で見届けるなんてつらすぎるもん。
『本当にそれが、都ちゃんの心からのお願い?』
首を傾げるパパに、私は何度も頷いた。
ここにさえいなければきっと、すぐに素敵な彼氏はできるだろうし、そうしたら大雅に見せびらかせばいい。
私は気合を入れると、三面鏡の前で、ぐぐっと拳を握ってみた。
たった一人の特別になれないなら、もう。
「その他大勢の女」といううざったい枠から飛び出す以外に、助かる道なんてない。
最後まで、大雅のたった一人の「特別な妹」で居続けてあげる。
他に、私が彼のとびっきりの「特別」になる方法なんて、何も思いつかなかったから。
私は、この、地獄で見つけた一本の蜘蛛の糸のような儚い可能性に賭けてみることに決めたのだ。
その糸が切れた途端、地獄に落ちると分かっていても、尚。
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