第一話 鬼ごっこ

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第一話 鬼ごっこ

 街外れの森の中にある廃墟の洋館。  持ち主が次々と不審死を遂げている、とか。  入ったら呪われる、とか。  蝋燭の灯りと人影が見える、とか。  真夜中に悲鳴が聞こえる、とか。  そんな噂のおかげで、季節を問わず心霊スポットとして人気らしい。  確かに街灯もなく真っ暗で雰囲気はあるし、外観は(ツタ)が絡まって、窓ガラスにヒビが入っていたりでなかなかに不気味だ。  不気味だけど、心霊スポットにありがちなスプレーで描かれた落書きやポイ捨てされたゴミは一切ない。 それは……。 「ああ、来たの?」  目ざとく俺を見つけて微笑むこの男が綺麗好きで掃除を欠かさないから。 「……そういう契約だから……」  視線を足元に戻せば、空気が冷えたような気がした。 「契約……そうだね、そういう契約だ」  笑っている、はずなのに氷のような声が俺を包む。  怖い……。  いつも怖いと思うし、もう来たくないって思うのに……。  三メートルは離れていたはずなのに一瞬で距離をつめて俺を抱きしめるこの男。 「紫苑(しおん)、おいで」  耳朶を舐めながら甘く低い声で囁かれれば、俺は途端に男の肩に頬を乗せてしなだれかかってしまう。     
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