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プロローグ
子供の頃、男なら誰しも一度はヒーローと言う存在に憧れを持った事があるのではないだろうか?
かく言う俺こと海真桐人も、小学生ぐらいの時はテレビで活躍するスーパーヒーローに憧れていた一人だ。
変身ベルトを買ってもらった時は嬉しくて舞い上がったし、祭りの時に買ってもらったお面を被れば本当にヒーローになったみたいな気になって毎日暗くなるまで友達と遊び回ってたっけ。
そもそも、その頃の俺がこうしてヒーローに憧れたきっかけはなんだったか。
…そうだ、幼稚園の頃親父に読んでもらった、昔話の桃太郎がきっかけだった。
絵本作家だった親父はとにかく絵本が大好きで、俺にもよく桃太郎とか浦島太郎とかみたいな有名な絵本を読み聞かせてくれていた。
俺がそう言う有名なのに飽きると、たまに自分で作った本も読んでくれてたっけ。
その自作本の中で小学校低学年くらいの時に読んでもらった正義感が人一倍強い少年の話【誠太郎】は、当時の俺の中でとても衝撃的だった事を今でもよく覚えている。
誠太郎は昔話の桃太郎みたいに村人を怖がらせる鬼を退治する為に仲間を集めて冒険すると言う話で、設定自体はベタでありふれた物だ。
面白味が無いと言えばそれまでなのだが、親父が作った話はその類いの話とは展開が大きく違っていた。
主人公の青年は最初こそ正義の為にと鬼退治に向かうのだが、最終的には鬼退治をやめてしまう。
そして正義を信じる事でさえやめてしまうのだ。
その理由は何だったか。
まぁとにかく当時の俺にはその結末がどうしても納得いかなくて、親父に文句を言ったさ。
「こんなの俺が知ってるヒーローじゃない!こんな奴弱虫だ!」
そしたら親父はそんな俺を見て大笑い。
「ははは!確かにお前の言う通り、この主人公の青年は弱虫かもしれないな。
でも、良いか桐人。
一つの事を信じ抜く、と言う事はお前が思っている以上に難しい事なんだぞ。
中にはこの青年のように信じていた物を途中で諦めてしまう人間だっている。」
そう語る親父の表情はどこか寂しそうだった。
「お前もこれから何か一つの事を信じ抜こうとすれば、それがどれだけ難しい事なのか気付かされる時が必ずくるだろう。
そこでそれを諦めるか、それでも信じ抜くのかはお前が自分で考えて決めていかなくちゃいけない事なんだ。
その選択によって失う物があるにしても、だ。
その中で信じる物が変わる事だってある。
だから桐人。
ヒーローになりたいなら、まずは一つ自分が本気で信じ抜ける物を見つける事だ。
たった一つで良い、それを探すのにどれだけ時間がかかっても良い。
何度塗り替えられても結局最後まで絶対に譲れない物を見付けて、それを全力で守れてこそ本当のヒーローだ。」
「うん!」
こうして、俺の中でのヒーローと言う存在の定義は確立していく。
これから俺が語るのはそんな正義感を信じる俺が体験した、あまりにファンタジックな体験談だ。
それは、現実離れしているのにあまりにも現実的で。
残酷で、もどかしくて、辛く厳しい。
でもどこか温かみがある、そんな物語。
あいつと出会ってから、俺の日常は確実に変化していく。
そしてそれは、あいつにとってもそうであると願いたいと思う。
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