第三章

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2  放課後。 「桐人君、今日部活に行くの?」 「え、あぁ…今日はやめとくよ。」 とりあえず今日は一刻も早く家に帰って考えを纏めたい。 「そうなんだ、じゃぁ無理しない方が良いね。 じゃあ今日はやめてまたにする?」 「え?…あぁ。 だから部活はまた明日…。」 「違うよぉ。 もぉ…忘れちゃったの? 今日の放課後、良く当たるって噂の占いのお店に行こうって約束したのに。」 「…は?」 ちょっと待て。 え、嘘だろ?じゃぁ…何か?時間が昨日に戻ってる…? 「ちょっと丸山!日付間違えてんじゃん!」 日直の女子が、文句を言いながら黒板に書かれた今日の日付を消して昨日の日付に書き直す。 それを聞いて改めてスマホで日付を確認すると、確かに日付は昨日の日付だった。 「今朝桐人君が一緒に行こうって言ってくれたのに…。」 分かり易く落ち込む千里。 「ご、ごめん…。 忘れてた訳じゃないんだ。 ただちょっと色々な事で頭が一杯になってて。 だ…だからさ、気分転換って事で!な?」 「え、あ、うん…でも本当に大丈夫?」 「あ、あぁ勿論。 占いな、今日行こう!すぐ行こう!」 「う、うん。 それなら…良いけど…。」 おい馬鹿やめろ。 今日の桐人君何だか変って思いながら哀れみの視線を向けるんじゃない! すぐにでも訳を説明したい所だが、恐らく理解されないもどかしさよ…。 「あ~!サボりだ~!」 慌ててごまかす方法を考えている所で、相変わらずアウトオブエアーの木葉がそれに割り込んでくる。 「木葉ちゃん、今日は桐人君調子悪そうだったから仕方無いよ。」 「え~?でも寄り道はするんでしょ?」 「えーと…それは…朝約束してたから桐人君が気分転換も兼ねてって…。」 「ぶ~…折角面白い事考えてたのにな~。」 うん、それちっともおもんないやつだわ。 おもんなさ過ぎて千里が大絶叫するレベルのやつだわ。 「キリキリ来ないんならつまんないし私もサボろっかな~?」 「おぉ!そんじゃぁさ、お前も来るか!?」 「え~…?」 俺が気楽に誘うと、奇異の眼差しを向けてくる木葉。 失礼な奴め…。 「何だか知らないけど…それって私も一緒に行って良いやつなの~?」 「おう勿論!是非行こう、そうしよう!なぁ千里?」 「え、あ…うん。」 やっぱりちょっと残念そうな顔をしてるな…。 「き…キリキリ本当に大丈夫…? 頭でも打ったんじゃない…? って言うか別人じゃないよね…?」 うわ、木葉にガチで心配されてしまった。 流石にわざとらし過ぎたか…。 つまりだ。 俺はどう言う訳か、あの巫女に指を向けられてから、昨日の昼過ぎの休憩時間までタイムスリップしてしまったらしい。 そう考えたら死神神社の話しはまだ聞いてない事になってるから、千里や蟹井が知ってないのも頷けるし、木葉が俺に知ってたんだと意外そうに言った理由も一応は納得だ。 そしてこの仮説を確かめる方法はある。 もう一度占いの店に行って警告を聞けば良い。 それでもし同じ事を言われたなら、恐らく間違い無いだろう。 占い師が変わっていたり、ここまでの変化で多少内容が変わるのは許容の範囲内。 要するにはそこに来たのが初めてだという証明が出来れば良い。 もし占い師が変わっていたら、納得いかない部分は多々あれど現実的な世界に戻ったとでも思えば良いのだ。 それが一番平和な解決だが、まぁ正直それはまず無いだろう。 今回木葉を強引に誘ったのは、出来るだけあの時の状況を崩さない様にする為だ。 部活に出ないって言う変更はあるものの、それは早く事実を確かめたいから仕方無いとする。 「本当にどうしたの…?マジなの?死ぬの?」 「まさかお前にそこまでガチで心配される時が来るとはな。」 「いやだっておかしいよ…。 急にデレるんだもん…。」 「アホか…別に嫌なら良いんだぞ?」 「い…行くよ!行けば良いんでしょ!?」 「なんだよ? そんな取り乱して。 お前らしくない。」 「き、キリキリのせいだ!」 顔を手で隠しながら、叫ぶ木葉。 「は!?なんだよそれ?」 「普段は冷たい癖に…急にズルいっての…。 それに何さ…私だって普通に心配くらいするっての…。」 小さな声で木葉が何か呟く。 「何か言ったか?」 「何でも無い!」 なんだぁ…? ここに来てこいつのいつもと違った一面が見れた気がする。 いつもならここらで何かしらネタをぶち込んで来そうな所だが、それも出来ない程に取り乱すとは。 と言うか俺の方から誘うのってそんなに意外なのか、と軽くショックを覚えつつ、三人で教室を出る。 と言っても歩き方の陣形は昨日の通り。 二人にハブられ、その後ろから俺がついて行く形。 ここまでは計画通り。 おっとそうだ。 部室へ向かう蟹井を見つけ、 「わりぃ、俺ら今日はサボるわ。」 「え、おう。 なんだよ見せつけやがって。 もう大丈夫なのか?」 「まぁ一応な。 今からとりあえず気分転換って事で寄り道でもしようかなって訳。」 「それで女子二人を侍らせて? かー…大層なご身分だこって。」 「だから、そんなんじゃねぇっていつも言ってるだろ?」 いつもの様に否定すると、 「酷い!あんなに強く私を求めておいて!」 わざとらしく顔を隠す仕草をして木葉が割り込んでくる。 「え…お前…ガチで…?」 それを見て軽蔑の視線を向けてくる蟹井。 「ちげぇっての!お前も人聞きの悪い言い方すんな!」 「べーだ。」 あ、リアルに舌をべーってする奴居たんだ。 てかこいつ、さっきの事まだ根に持っていやがったのか。 「まぁ良いや。 俺も今日は用事あるからちょっとだけ顔出したら帰るつもりだったし。」 あ、そう言えば昨日って事は…。 「なぁ蟹井。 お前に一つ忠告しといてやろう。」 「は?急になんだよ?」 「プレゼントは凝った物よりシンプルな物の方が喜ばれるぞ。 命が惜しいなら肝に銘じとけ。」 「え、なんだよそれ、え?」 頭上に?マークを浮かべる蟹井。 でも俺が言ってやれるのはここまでだ。 本来なら今日が蟹井の妹の誕生日だって事は今の段階では聞いてないと言う事になってる。 だから今はこうして内容をぼかして伝えるしかないのだ。 「…って今朝ニュースの占いで言ってたぞ。」 だからこれが精一杯。 許せ…蟹井。 「なんだよ占いかよ。 えらく自信ありげに言うから何かと思ったじゃねーか…。」 「はは、悪い悪い。 ちなみにラッキーカラーは赤だぜ。」 「へいへい。 じゃーな。」 呆れ顔でその場を去る親友の背中を見送りながら、ラッキーカラーがこいつの見る最後の色じゃない事を願う。 「キリキリって占い好きだったんだ…。」 周りから見た俺の設定に意図せず変な物が追加される事となったが、まぁ親友の命には変えられまい。 校門を抜け、徒歩十分程。 見覚えのある古くさい小屋。 小さな看板に占いの文字。 筆跡もどうやら同じように見える。 恐らく店主は一緒。 後は占いの結果次第だ。 「あ、ここだよ。」 「よし!早速入ろうぜ!」 「ん~…今日のキリキリはせっかちだなぁ…。 どんだけ占いが好きなのよ~。」 「だってよく当たるんだろ!? もしかしたらもしかするかも!」 「何がもしかするのか分からないけどさ~…。 あ~はいはい分かった分かった…。」 面倒くさそうに仕方なくついてくる木葉。 「でも、楽しみだね。」 千里もそれに続く。 慌ただしく中に入ると、あの時の占い師が同じように本を読んでいた。 相変わらずこちらには一瞥もよこさない。 「おい、俺の未来を占ってくれ!」 そう言うと占い師はやっとこっちを見る。 かと思えば、小さくため息。 そしてあの時のようにホワイトボードを取り出し、何かを書き出す。 そしてそこに書かれていた文字は、あまりにもシンプルだった。 【嫌だ。】 「は…?嫌だって…。」 予想外の返答。 内容云々よりもまさか拒否されるとは思ってもみなかった。 だがしかし、その次に向けられた言葉で俺は更に衝撃を受ける事になる。 【あなたはもう私から予言を聞いた筈だよ? それともまた同じ予言を聞きたいの? ロリコンさん。】 「同じ予言…?ロリ…え?」 耳を疑った。 予言内容が同じと言うのは、頷ける。 仮説通り、問題はそこじゃない。 占い師ははっきりと伝えて見せたのだ。 俺がここに来たのは二回目なのだと。 おまけに、まだ何もしてない(誓って前もしてないが)俺をあの時のようにロリコンさんと呼びやがった。 つまりこれはタイムスリップなんかじゃなく、今も前も確かに存在してると言う事。 そしてどう言う訳かそれを認識しているのは、俺と占い師だけらしい。 思考を続ける俺を見てか見ずか、占い師は再び文字を書き始める。 【一つだけ教えてあげる。 あなたの死に場所はここじゃない。 この世界であなたは何としてでも生き残らなければならない。】 「…なっ…どう言う意味だよ!? じゃあこの世界は一体なんなんだよ!?」 そう言う俺は必死だった。 信じようとした仮説を打ち砕かれ、この先どうすれば良いかも分からない。 藁にも縋る勢いで問い詰める。 【そんな事も分からないの? これはあなた自身が望んだ試練でしょ?】 「んなっ…。」 そうか…これがやっぱり試練だったのか。 結局、それが一番しっくり来る答えなのだ。 ただこれまでの出来事があまりに普通過ぎたから、自殺者を大量に出したと言う試練だなんて思えなかったから他の名前を探していただけ。 【まだ試練は始まったばかり。 ここから抜け出したいなら、自分の力で試練に立ち向かう事ね。】 「俺の力…?」 【守りたいんでしょ? 大切な物を。】 「守りたい!…でも…どうすれば良いんだ?」 気持ちと共に声も気弱になり、そんな様は大人に宥められている子供の様だ。 もっとも俺を宥めているのは俺よりも一回りは下であろう少女な訳だが。 占い師はそんな俺を見て小さくため息を吐き、文字を書く。 【大切な物を守る為に必要な物。 それが分からない限り、あなたはこの世界から抜け出せない。】 「必要な…物…?」 【これ以上の忠告はしない。 後は自分の力でやる事だね。】 「そ…そんな!」 【運命を変えるんでしょ? 私が告げた未来を信じないんでしょ? その程度の覚悟で、何かを変えようだなんて…甘いんじゃないの?】 「っ…。」 確かにその通りだ。 前にここに来た後に決めたじゃないか。 運命を覆してみせるって。 あの時はあんな大それた事言ってた癖に今はどうだ? 結局何も出来ずに、こんな少女に頼る事だけに必死になって馬鹿みたいだ。 「そうだな。 お前の言う通りだ。」 【そう。 分かったなら早く行きなよ。 私も忙しいんだから。】 そう言ってまた本を開く占い師。 なんだよ、忙しいなんて言っといて結局本を読んでるだけじゃないか…。 【あとそう言えば。】 思い出したように本を閉じ、また文字を書く。 【私の名前は雨。 占い師は名前じゃないよ、ロリコンさん。】 ロリコンってのも名前じゃないんだよなー…。 「あのな…だから俺はそう言う趣味は…」 そう言いかけたところで雨はそっぽを向いて、 【それと、そろそろいい加減放置してる二人の相手をしてあげたら?】 言われて後ろを見ると、木葉は哀れみの視線を向け、千里はそんな木葉を見てオロオロしている。 「いや、これはその、色々あってだな…。」 冷や汗が滝の様に流れる。 「うん、キリキリ、分かった。 私は何も見てないし何も聞かないから…。」 俺から目を背け、棒読みで言う木葉。 「それ絶対全部見てたし理由なんて全く分かってない奴の反応だからな!?」 「え、えっと桐人君。 私は何があっても味方だから…その…。」 「ええい!皆まで言うな!」 千里にまで哀れみの言葉をかけられ、もう既に俺のライフはゼロだ。 これが現実なら一週間は引きこもって泣き寝入りするレベル。 「って言うか雨!そう言うお前も堂々と客を放置して本を読んでんじゃねーか!」 こっちのやりとりなどお構い無しに再び本を読んでいた雨に当たると、今度はその辺にあった色紙に何かを書いて投げてきた。 【二人とも大凶、以上。】 「適当だなおい!?しかもそれ占いって言うかおみくじじゃねぇか!」 「だ…大凶…。」 おい…あんな適当だったのに千里の奴本当にショック受けてるぞ…。 なんなら雨の奴二人に一瞥すら無かったぞ? 「え~!?大凶とか逆にレアくない!?」 うん、こいつはいつも通り。 【見なくても分かるよ。 占いって言うのは見る物じゃ無くて感じ取る物だと思うから。 まぁ、勿論見る物と言うのも間違ってはいないと思うけど。】 「お前…もっともっぽい事言ってちゃっかりサボろうとしてないか…?」 【そうじゃないよ。 仮にあなたに告げた運命が大当たりなら、他の二人が大吉な訳が無い。 それともあなたは自分が自殺したら二人が幸せになれるとでも?】 「う…まぁそう言われたらそうかもな…。」 そう考えると運勢と言うのは、案外どこかで繋がっている物なのかもしれない。 事実俺が自殺する運命を辿るのは、大切な人を失ったかららしい。 例えばその大切な人が自殺したなら。 その不幸は俺にとっても不幸だから、千里や木葉にも同じ事が言えると言うのはもっともだ。 つまりはそう言う事なのだろうか。 失うと言う言葉は様々な解釈が出来る。 告げられたその日に考えた様に、ただ片思いしてフラれた、とか付き合って捨てられたとかで自殺するなら重いと思う。 そんな事を自分がするなんて考えられない。 ただその別れが死別なら? そんな場面に直面したら、俺は一体どうなるのだろう? 考えただけでゾッとする。 「桐人君、どうしたの?」 「いや…なんでもない。 そろそろ出ようぜ。 「あ、うん。」 「おっけ~。」
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