第一章

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第一章

1  まだ少し肌寒い四月の半ば。 目覚まし時計がいつものように容赦なく鳴り響き、俺は渋々起き上がる。 とりあえず改めて名乗っておくと、俺の名前は海真桐人。 歩いて家から数十分程の距離にある、公立白神高校に通う二年生だ。 「桐人ー!早く降りてきなさい!」 目覚まし時計よりもよっぽどうるさい母さんの声に後押しされ、部屋のドアを開く。 途端に朝食の良い匂いがして、自然と腹が鳴る。 ふむ、今日はフレンチトーストだな。 ここで簡単に我が家の事を説明しておこう。 築二十年、ボロい二階建て一軒家。 家族構成は俺、母さん、父さんの三人。 まぁ三人と言っても、俺が高校に入った辺りから放浪癖が出始めた親父は基本家に居ない。 一週間に一度帰ってくるくらいで、その時も突然居なくなるのだ。 だからここで生活しているのは、実際殆ど俺と母さんだけな訳だが…。 親父いわく絵本作家と言うのは旅に出る物らしく、その範囲は国内から国外まで問わない。 まぁ、帰ってくる度に色んな所のお土産を必ず買って帰ってくるのが少しは楽しみだったりするが、ほったらかしの母さんが気の毒だ。 ちなみに早い段階でその生活に慣れた俺は特に気にしていない。(真顔) 階段を降りてリビングのドアを開くと、予想通りの朝食が用意されていて母さんは洗い物をしているところだった。 「ほら、早くしないと。 千里ちゃん来るわよ。」 「へいへい。」 軽く返事を返して朝食のフレンチトーストにかぶり付く。 うん、俺好みの甘さだ。 ちなみにさっき話題に上がった千里とは、俺の幼馴染の前村千里の事である。 家が近所なのもあり、幼稚園からの付き合いで、その時からよく一緒に居た。 平凡以下な俺と違って成績は常に上位をキープしているクラスの優等生。 淡い栗色の髪は肩までの長さ。 両側をリボンで結んでいて、それぞれをお下げにしている。 大人しい性格に黒縁眼鏡がよく似合う、良く言えば癒やし系、悪く言えば地味。 とまぁそんな感じだ。 ちなみに地味と言う印象を俺以外が口にするのは断固認めない。 これ、幼馴染あるあるな。 朝食を食べ終わってから着替えを済ませて一通りの支度が終わると、まるで狙ったようなタイミングで家の呼び鈴が鳴る。 「おし、んじゃ行ってきます。」 「はいよ。 行ってらっしゃい。」 軽く挨拶を交わし玄関のドアを開けると、見慣れた幼馴染の姿があった。 「桐人君、おはよう。」 「おう、おはよ。 相変わらず時間ピッタリだな。」 「ふふふ。 毎日来てるから感覚覚えちゃった。」 「ははは、だよな。」 何気ない会話を交わしながら、いつものように並んで通学路を歩く。 俺達が通う公立白神高校は、母さんの母校でもある結構な歴史を持つ高校だ。 部活や研究会が盛んで、種類も結構幅広い。 結構な広さのグラウンドと体育館、道場があり、スポーツだとメジャーな野球やサッカー、バスケットや陸上とかは勿論、ラグビーや剣道、水泳に柔道などなどが日々練習に励んでいる。 研究会だと映画研究会や漫画研究会、ゲーム研究会やミステリー研究会、(ちなみに俺はホラー研究会に所属している。)などなど。 数年前に建てられた新校舎と、母さんが居た当初からある旧校舎、それぞれ四階建ての造りで、一、二年は旧校舎、三年は新校舎にホームルームがある。 古い資材を保管する倉庫とかが主にある旧校舎と違い、新校舎はパソコン室や、大型のスクリーンがある視聴覚室なんかもあり、そこには映画研究会も使う映写機がある。 おまけに一階には購買があると言うメリットまであるのだ。 だから購買人気メニューである特製プリンやカレーパン、ヒレカツサンドなんかは三年に全て買われてしまう。 それでも買いに行こうとする勇者もいるが、弁当がある俺は勿論そんな無謀な事はしない。 まぁ、来年一度くらいは食べれたらなぁとは思うのだが。 などとそんな風に格差社会の縮図を嘆いていると、横を歩いている千里が突然話題を振ってくる。 「そう言えば桐人君、知ってる? この近くにある占い屋さん、すごくよく当たるんだって。」 「へぇ…なんか胡散くせぇな。」 あまり占いを信じてない俺は、思うままの感想を伝える。 「そうかな? 私は興味あるんだけどなぁ…。」 それに対してもじもじしながら俺の方をチラチラ見てくる千里。 やれやれ、分かり易い。 「…今日の帰り一緒に行くか?」 「うん!行きたい!」 とても嬉しそうに喜ぶ千里。 そんなやりとりをしている間に、あっと言う間に校門前に着く。 いつも通り余裕をもった到着である。 勿論これも、毎日一緒に登校してるが故にお互い遅刻せず余裕を持って着ける時間を日々試行錯誤した賜物なのだ。 「ふふふ、楽しみだなー。」 「おいおい、良いのか?優等生が寄り道なんて。」 「えぇ!?き、桐人君が一緒に行くかって言ってくれたから…。」 俺がからかってやると、予想通りに困ったような顔をする千里。 「はは、冗談だって。」 それを見て満足した俺はそう言って笑った。 「もぉ…。」 拗ねた千里をからかいつつ、俺達は教室へと向かうのであった。
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