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ただしそれはあくまで、まだ瑞々しい若さを保っていた頃の「私」のもの。
『生産』に『老化』の設定はされません。
よって生み出される【私】は、生物として最も成熟し、かつ全く疲弊していない状態で固定されます。
現在の「私」と違って非常に張りのある肢体を誇っているそのボディは、かつて通り過ぎた筈の「私」自身ですら、年経た今の肉体とのリンクを想像することが出来ません。
また色味も、とても「私」らしいとは言えませんでした。
混合ベースがキャベツであるため、薄く緑がかっているのです。
一定の間隔で、いくらでも生まれてくる薄緑色の【私】たち。
その品質を、チェック表片手に事細かく観察する作業員の群れ。
過去の「私」と寸分違わぬたくさんの裸体を大勢に見られるこの状況に、最初の頃は恥じ入る心を持ち合わせていたような気もしますが、「私」と【私】達との肉体年齢の差が開くほどにこの感覚は麻痺してしまい、今では何の感情も浮かぶことはありません。
それらの事はおしなべて、「私」とは何の関係もない遠い世界のこととしか思えませんでした。
そう、全ては実際に遠い世界のことでしかないのです。
「私」がこのとてつもなく広い『工場』の管制棟に「救世主」として軟禁されて、もう何年が経ったのでしょうか。
寝て、起きて、『工場』を稼働し、その様子を見守り、眠りにつく。
ただそれだけの繰り返しを、あといったい、何日、何週、何年続ければいいのでしょうか。
きっと死ぬまで、いいえ、死すらも許されないのかも知れません。
それ程までに「私」は世界の全てから求められているのです。
たったひとつの、かけがえのない『食材』として――
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