「私」の願い

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 この状況を打破したのが、当時「私」によって開発された『ゲノムプリンター』という発明品でした。  これは、様々な分子を配合した特殊な溶液に対して数本のレーザーを照射・交差させることで、生長の仕組みさえ事細かに解き明かされていれば、どのような生物であれゲノム情報通りの生物を設定した生育レベルで、しかも一体につき数分という驚異的な速度で『生産』することの出来る機器でした。  しかしこれによって産み出される個体はほぼ全てが即時SGを発症しました。  唯一の例外が、「人肉」のサンプルとして使用した「私」のゲノム情報から生まれた【私】だったのです。  彼女だけは、『生産』から幾日経ようがSGを発症することなく、瑞々しさを保ちました。  他の人間でも試しましたが、それらは何故かSG耐性を獲得しませんでした。個体ごとのゲノム情報の差異など、ほぼ無いに等しい数字であるにも関わらず。  また、これは完全に想定外でしたが、照射レーザーのうち1~2本に対して別の食材のゲノム情報を入力することで、【私】はその食材の特性を色濃く発現したブレンド食材として産まれることも分かりました。  もちろんブレンド後も【私】はSGへの耐性を保ちましたし、その上、食した者へSG耐性をももたらしたのです。  我が発明品ながら『ゲノムプリンター』は謎多き祝福に満ちていましたが、その深淵に迫るための研究は未だに為されていません。世界はとにかく、一刻も早い【私】の安定供給を望んでいたため、「私」はその作業に対して全精力を傾けざるを得ませんでした。  その結果として、「私」はこの【私】を『生産』する『工場』に囚われる事となりました。  そしてそれは、今でも続いているのです。
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