4人が本棚に入れています
本棚に追加
『処理室』は分厚いポリカーボネートで廊下側と『工場』側の前後に分断されており、互いの行き来は出来なくなっています。
「私」専用の廊下側には、過去の研究の遺物や資料などが雑多に押し込まれ、「私」の趣味部屋の様相を呈しています。
一方『工場』側には何もなく、ただ広々とした冷たい空間が拡がるのみです。
「私」が『処理室』に入ると同時に、『工場』側の扉がゆっくりと開きました。
そこから現れたストレッチャーはエラー個体――薄緑色の【私】を乗せていましたが、作業員はまるでゴミを扱うような粗雑さでそれを床へと転がし、速やかに今来た扉をくぐって姿を消しました。
すると直ぐに、【私】は身じろぎを始めました。
それはあまりに拙く、また緩慢で、皮膚同士が擦れてぎゅうぎゅうとキャベツらしい窮屈そうな音を奏でます。
これも理由は判明していないのですが、基本的に【私】は意識を持たず、生命維持以外の身体的活動を行いません。
ですが、なぜか必ずある一定の割合で動き出す個体が顕れます。
生産物としてはノイズでしかないため彼女達は『エラー個体』と断じられ、「私」によって『処理』されます。
このキャベツの【私】もそのひとつです。
彼女はいくつかの部位を新たに割りながら、なんとか床へと座り込み、虚ろな瞳を「私」へと向けました。
パターン通りでした。
どの食材をベースにした『エラー個体』も、何故か必ずこのように、真っ直ぐ「私」を見据えます。
彼女も何事かを呟くように唇を動かしながら、やはり「私」を一心に見つめていました。
そのどろりと濁った目線の中には必ず、恨みつらみ、そして少しの哀れみがない交ぜになったものが見え隠れしています。
最初のコメントを投稿しよう!