「私」の願い

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 やがて【私】は幾千の欠片と成り果てましたが、今回も何一つ成果などなく、再び訪れた作業員によって清掃されてゆく部屋の様子を眺めながら「私」は深い溜め息を吐きました。  今まで数多の食材で同様の『処理』を行いましたが、全て同じ事でした。  しかし未だ試していない食材など――  ――いえ、一つだけありました。 「人肉」です。  盲点でした。 「人肉」として試作した【私】のゲノム情報は全てが「私」のもの。  ならば出来るだけ「私」と相違点の多いヒトのゲノム情報――例えば男性のゲノムとのブレンド食材として「人肉」の【私】を『生産』したならば、より鮮明な『魂』との邂逅が叶うのではないか?  よしんば叶わないのだとしても、そこからは一体何が生まれるのだろうか?  もちろんこれはただの直感、思いつきに過ぎません。  しかしこれに思い至った瞬間から、「私」はこの問いに対する知的好奇心に取り憑かれてしまいました。
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