奇妙なことに、君がいなくなった後も世界は存在している

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 奇妙なことに、君がいなくなった後も世界は存在している。  君がいた頃と少しも変わることなく、陽は昇り沈み風は吹き、電車は走り、テレビはドラマを放送し、蛇口からは水が出る。  懲りもせず人々はカフェでキャラメルマキアートなんかを飲み、スマホでモンスター狩りなどをしている。  下らない冗談で下品に笑い、わけもなく道端にたむろして時間を浪費している。  明日は来ないかもしれないのに明後日着る服を買い、来週のコンパの約束をメールに書き込んでいる。  そんな人々の間を歩きながら僕は夢想する。  たとえば、君の歌を仕込んだウイルスをネットに流し、君のライブを映すATM、君の曲を歌う防災行政無線塔、君の名前をモールス信号で語る信号機、君の詞を打ち出すスーパーのレジ、そんなものでこの町を満たすことを。  もちろん、そんなことができたところで君がこの世界にいないことには変わりはなく、世界は相変わらず平然と存在し続けることだろう。僕自身が消え去った後もそうであるように。  君も僕も初めからなかったのと同じように、この世は存在し続けるだろう。   不生不滅   不増不減  これだけが真実なのかもしれない。  何も始まらず何も終わらない。
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