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「……惜しかったな」
ピットコーナーで、心底残念そうな顔の久里原が言う。
結局、俺は失格負けになった。最後の最後でリアタイヤがバーストしやがったのだ。あの予想外のヨーの原因はそれだった。規定ではクルマが走行不能になるほどのトラブルに見舞われた時点で失格となる。
「ま、しょうがねえさ。反則みたいなクルマが相手だったからな。善戦したってもんだろ……ん?」
対戦相手のピット側から、ヘルメットをかぶったレーシングスーツ姿の人物が近づいてくる。まさか……「SEVEN」か?
しかし、やたら背が低い。150センチメートルちょっとだろう。しかも……腰にくびれがある……?
と、「SEVEN」がヘルメットを脱いだ。そこからいきなり長い黒髪がふわりと舞い降りる。
「あんたが『RYO』か?」
「SEVEN」は俺の目の前に来ると、ハスキーな声で言った。見るからに気が強そうだが、結構な美人だ。
「まさか……女だったとは……」
思わず俺がそう言うと、不機嫌そうに彼女が応える。
「ああ? せやからどやっちゅうねん。あんた体重どんだけ?」
「え……75kgだけど」
「ウチは52kgや。これだけでもパワーウェイトレシオ違うやろ。女やからって舐めたらアカンで」
なるほど。とにかくこの競技は、ドライバーも含めて少しでも軽い方が有利なのだ。
「その割には、えらく重たそうなモノを前にぶら下げてるようだが」
俺の視線が、彼女の大きく膨らんだ胸元に移る。
「ダァホ! どこ見とんねん! このセクハラ野郎が!」
彼女は凄まじい形相で俺を睨み付ける。が、その表情がすぐに緩む。
「せやけど……ウチをここまで追い詰めたんは、あんたが初めてやで。ホンマ、負けたか思たわ」
場内アナウンス。表彰の準備が整ったようだ。
「ほな行こか。表彰台とシャンパンが待っとるで」
「ああ」
俺たちは並んで歩き出す。
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