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藤田さん、あれって本物のチョコだよね?
そして、差し迫ったバレンタインデー。学校生徒の全員が、そわそわと落ち着かない日だ。
俺は一人で作った、チョコレートケーキのストラップを鞄に潜ませていた。一日の授業が終わるまで、俺の心臓も爆発しそうだった。この想いを込めた習作を上手く渡せるかどうか、不安になる。本命にチョコレートを渡す女の子も、こんな気持ちなのだろうか。
「はい、連絡の時間は以上です。全員、気を付けて帰るように」
担任教師の区切りの言葉を合図に、生徒全員は思い思いの行動を取りだした。部活へ向かう者、とっとと帰る者、ロッカーの中身を何回も確認して落胆する者。
俺が藤田さんに声をかけようとすると、彼女は俺に、両手ほどの大きさのピンクの箱を差し出してきた。
「栖原君。これあげるよ」
俺は、その台詞と今の状況に、既視感を覚えた。恥ずかしい思い出だ。
「あ、ありがとう、藤田さん」
この箱の中身は十中八九ストラップだろう。バレンタインデーに則ってプレゼントをくれるのは嬉しいけれど、彼女に先を越されてしまったな、と少し残念な気持ちになった。
「受け取ってもらえると嬉しいな。じゃあ、私、部活だから」
「え、待って藤田さん!」
藤田さんは足早に教室を去った。しまった、俺だって渡すものがあるのに。けれど、部活が終わる時間まで待つしかない。折角なので、彼女からのプレゼントの中身を見てみることにした。技術の高さに打ちひしがれるかもしれないけれど。
箱を開けると、中の空間は六つに区切られていて、その中に一つずつ、小さなトリュフのフィギュアが詰められていた。ココアパウダーを被っていて、非常に精巧だ。
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