藤田さん、あれって本物のチョコだよね?

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口角が自然に上がってしまった。藤田さんは、お菓子作りの才能は無いと言っていたけど、十分上手いじゃないか。広がるココアの香り、口の中で優しく溶けていくチョコ。俺の大好きな甘いお菓子だ。 藤田さんが苦手なお菓子作りにわざわざ取り掛かってくれて、その結果出来たものを俺にくれた。そのことがこの上なく嬉しい。 俺のために? 他の人にも渡しているのかな? どうして、これを俺に渡してくれたのだろう? 疑問が沢山湧き上がる。俺はその場でじっとしていられなくなって、製作部の部室の近くの踊り場で藤田さんを待った。自惚れでも構わないから、俺の今の気持ちを伝えたい。きちんと言葉にできないかもしれない。俺から彼女に返せるものなんてほとんどない。だけど。 鞄の中から、白い紙袋を取り出す。この中に、俺からのささやかな贈り物がある。これ以上に、俺の気持ちを彼女に伝えてくれるものは存在しないから。
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