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「藤田さん」
「……栖原君、もしかして待ってたの?」
時計と俺の顔を見比べた藤田さんは、観念したとでも言うように目を細めた。
彼女に、俺の考えていることを全てぶつけたい。けれど、俺の口は一つしかない。
「藤田さん、あれは本物のチョコなんだよね?」
「栖原君のことだから、それはもう分かってるでしょ?」
「うん、食べたから。美味しかったし、すごく嬉しかった。ありがとう。……このチョコ、貰ったのは俺だけなのかな?」
走ったわけでもないのに、息が上がってきた。緊張している。俺だけのものであってくれ、と思う。
「うん、当たり前だよ。六つも作ったら一日経ってたんだから、他の子にあげるなんて有り得ない。ねえ、それを聞くためだけに、わざわざ来てくれたの?」
「それもそうだけど、もっと聞きたいことがあるんだ。あと、藤田さんにどうしても渡したいものがあってさ」
俺は何の装飾もされていない、白い紙袋を藤田さんに手渡した。肝心なことが言えない。けれど、伝わってほしい。
「ありがとう。中、見ても良い?」
「もちろん」
「……ああ、これは。一人で作ったんだ。可愛いね」
藤田さんが嬉しそうに、そのストラップを鞄に取り付ける。俺のあげたものを、藤田さんが付けてくれる。藤田さんも、こんなに嬉しくて仕方ない気持ちだったのだろうか。
まだ藤田さんと話していたい。まだ聞きたいことが山ほどあって、時間が足りない。
「チョコかと思って、びっくりしちゃった。でも、ありがとう。私にとってはこれ以上ないプレゼントだよ」
「……良かった」
校内放送が再び鳴り響く。あと十分で下校時間だ。
「藤田さんと沢山話したいことがあるんだ。一緒に帰りませんか」
「もちろん。私、栖原君ともっと一緒にいたいの」
藤田さんの言葉は、俺の全ての問いに対する答えと言っても良い。今はこれ以上求められない程、嬉しい言葉だった。
俺達は外に向かって歩き出した。さて、何から話そうか。
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