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「アラザンの輪……」
「これのことかな、栖原君。これ、アラザンじゃないよ」
藤田さんはアラザンの輪をつまみ、呆けた俺の方に近づけてくる。
その輪はチョコと、ある一点でくっついていた。
「これ、ボールチェーンだよ」
「……チェーンってことは、これ、ストラップ?! お菓子をくれたわけじゃないのか……」
「そうだよ! 残念ながら、私にはお菓子作りの才能は無いんだ」
おお、何ということだろう、栖原繁晴よ。
お前の目が節穴であることを藤田さんに知られただけでなく、愚行を止めてもらうなんて。俺は自分で自分を責め立てる。
彼女には感謝せねばならない。あのまま止めてもらえなかったら、俺は今頃腹を壊すどころでは済まなかったのだから。
時は放課後、ぱらぱらと生徒が帰っていく最中である。
藤田さんはともかく、俺は影が薄い方なので、こちらを気にしている者はいなさそうなのだが。
胸の底から湧き上がる恥の感情を押し込めようとしながら、俺は藤田さんに向き直った。
「なんか、ごめんよ、ありがとう……ああ、やっぱり恥ずかしい!」
「あはは。良いんだよ、なかなか珍しいものが見られたからね」
俺の腹は、お預けを食らったことに悲しむかのように、きゅるるると音を鳴らした。恥の上塗りだ。
藤田さんはそれを聞いて、申し訳ないと言うように、そのストラップを手渡してくる。
「でも、これならあげられるから、受け取ってよ」
「それじゃあ、有難くもらっておくけど。そういえば、なんで急にストラップをくれたんだ?」
「んーと。私実は、こういうのを作るのが趣味でね」
藤田さんは紺色の通学鞄を漁ると、両手に収まるほどの丸い缶を取り出した。
その中には、ボールチェーンやストラップ紐のくっついた、小さなエビフライや目玉焼き、ステーキやサバの照り焼きなどが入っていた。
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