栖原君、それアラザンじゃないよ

2/5
前へ
/15ページ
次へ
「アラザンの輪……」 「これのことかな、栖原君。これ、アラザンじゃないよ」 藤田さんはアラザンの輪をつまみ、呆けた俺の方に近づけてくる。 その輪はチョコと、ある一点でくっついていた。 「これ、ボールチェーンだよ」 「……チェーンってことは、これ、ストラップ?! お菓子をくれたわけじゃないのか……」 「そうだよ! 残念ながら、私にはお菓子作りの才能は無いんだ」 おお、何ということだろう、栖原繁晴よ。 お前の目が節穴であることを藤田さんに知られただけでなく、愚行を止めてもらうなんて。俺は自分で自分を責め立てる。 彼女には感謝せねばならない。あのまま止めてもらえなかったら、俺は今頃腹を壊すどころでは済まなかったのだから。 時は放課後、ぱらぱらと生徒が帰っていく最中である。 藤田さんはともかく、俺は影が薄い方なので、こちらを気にしている者はいなさそうなのだが。 胸の底から湧き上がる恥の感情を押し込めようとしながら、俺は藤田さんに向き直った。 「なんか、ごめんよ、ありがとう……ああ、やっぱり恥ずかしい!」 「あはは。良いんだよ、なかなか珍しいものが見られたからね」 俺の腹は、お預けを食らったことに悲しむかのように、きゅるるると音を鳴らした。恥の上塗りだ。 藤田さんはそれを聞いて、申し訳ないと言うように、そのストラップを手渡してくる。 「でも、これならあげられるから、受け取ってよ」 「それじゃあ、有難くもらっておくけど。そういえば、なんで急にストラップをくれたんだ?」 「んーと。私実は、こういうのを作るのが趣味でね」 藤田さんは紺色の通学鞄を漁ると、両手に収まるほどの丸い缶を取り出した。 その中には、ボールチェーンやストラップ紐のくっついた、小さなエビフライや目玉焼き、ステーキやサバの照り焼きなどが入っていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加