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栖原君、手に持っている黒いものは何かな?
その次の日の朝。俺は教室に入って、机に鞄を置いた。藤田さんからもらった目玉焼きがゆらゆらと揺れる。身に着けると意外と愛着が湧くもので、俺はこの目玉焼きを可愛いと思い始めていた。
鞄の中身を出していると、昨日俺が生み出してしまった、混沌の欠片が手に触れた。ごめんよ、マカロンになるはずだったもの。俺のせいで、お前の人生は狂ってしまったんだな――
俺が悲しき残骸に懺悔をしている最中にも、教室の扉がガラガラと音を立て始めていた。朝練終わりの運動部員、ちょっと早めに教室に着いた女子生徒。その中に、藤田さんの姿があった。
「おはよう、栖原君。……ええと。その、手に持っている黒いものは、何かな?」
藤田さんは、俺の手の上の未分化物質を指さして尋ねてくる。俺は、昨日あったことを正直に話すべきだろうか。そんなことをしたら、彼女を悲しませてしまうに違いない。しかし、俺が逡巡している間、藤田さんは俺の隣の席に座って、俺の方を注視していた。俺はまだ、挨拶すら返していなかった。
彼女の視線が俺にぶっ刺さってくる。無言のままではいられない。
「……まずは、おはよう、藤田さん。そして、これは」
「これは?」
「……ごめんなさい」
俺は事の顛末を話した。
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