栖原君、手に持っている黒いものは何かな?

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「なるほど。製作キットの成れの果て、ってことだね」 藤田さんは遠い昔を見るように、俺のことを見つめていた。もしかしたら、彼女にも昔、このような未熟な時期があったのかもしれない。 けれど、いっそ責められたほうが気が楽だと思う。罪悪感と情けなさが俺の心を覆った。 「マカロンさんには酷いことしたな……」 「……色はもう、どうにもならないかもしれないけれど。ちょっとその子、私に預けてもらえるかな?」 藤田さんは、製作の趣味があるとは思えないほど整った、細い綺麗な手を俺の方に差し出してくる。俺は言うとおりにするしかなかった。それ以外に打開策など存在しない。 藤田さんは、受け取った黒いものを掌の上でこねくり回し、安心したような顔をする。けれど、その顔も一瞬のうちに真剣な表情へと変貌し、手つきも変わった。 俺は、彼女の指の動きを逐一確認した。けれど、どう指を動かせば同じものが出来上がるのか、皆目見当もつかなかった。黒なのか茶色なのか分からない残骸は、一瞬で愛嬌のある球になる。そして、いつの間にやら半球に分けられて、形を整えられていた。もはやマカロンの一部分だ。 しかも、いつ取り出したのかは分からなかったが、白い樹脂粘土が机の上に乗っかっている。藤田さんの手持ちの粘土なのだろう。そうでなければ困る。 指の動きと粘土の形がリンクしない。過程と結果が結びつかず、因果がねじれている。彼女は魔法使いだったのだ、と俺は確信した。 「まだ固まってなくて良かった。はい。チョコマカロンの完成だよ」 藤田さんは微笑んでいる。一仕事終えたぜ、とでも言いたげな顔だった。
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