栖原君、手に持っている黒いものは何かな?

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目の前には、いかにもメレンゲで作られています! と宣伝されてもおかしくないようなマカロンが鎮座していた。クリームは白くツヤがあり、そのクリームを挟む半円の断面には、メレンゲと砂糖を想起させるような、細かい気泡と粒が寄り集まっている……。 俺がそれに触ろうとすると、また藤田さんに止められる。どうやら、まだ固まり切っていないらしい。 「これは粘土だからね。固まるまでに時間がかかるの。短くて数日、長くて一週間くらい」 「そうだったんだ。だから、あの混沌の物体をこんなに可愛らしく手直しすることが出来たんだな」 つまり、助けを求めるのは早ければ早いほど良い、ということだろう。世の中のトラブル全般に当てはまる真理だ。 「ごめん、藤田さん。手間をかけたよ」 「良いの。やってみようって思ってもらえたことが、嬉しいの。……栖原君って優しいね」 「あ、いや、そんなことないって。あのさ、実はエビフライのキットもあるんだ。作り方のコツを教えてもらえないでしょーか」 藤田さんは満面の笑顔で、もちろん、と言ってくれた。 俺はもう失敗しない。マカロンさんはどうにかなったが、エビフライさんも助けられるとは限らない。 藤田さんにキットをそのまま託すという手もあるが、それはそれで悔しい。実のところ、粘土を捏ねるのはすごく楽しいし。なので、どうにか見られるものを作ってみたいなあ、と俺は思っていた。
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