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栖原君、それアラザンじゃないよ
女の子からお菓子を貰ったら、誰だって浮かれるに決まってる。
「栖原君、これあげるよ」
笑顔で手渡されたら、ますます嬉しくなってしまう。
「チョコ……?! ありがとう、藤田さん!」
白木屋高校一年A組、栖原繁晴。本日、人生至上初の目出度い日でございます。
だって、隣の席の藤田満実子さんから、チョコレートを貰ったのですから。
とは言え、今日はバレンタインデーではないから、特別な意味なんて無いのだろう。ただ親切心でくれただけだ。だから落ち着くのだ、栖原繁晴。
「どうしたの? 栖原君」
「あ、いいいや! 嬉しくて……ちょっと見惚れてたんだ」
俺は今まで、女の子から物を貰うことなんて殆どなかった。
しかも周りには隠しているけれど、俺は甘いものが大好きなのだ。
内心は浮かれながらも、笑顔は控えめにしておく。
満面の笑みで受け取るなんて、俺が飢えてるみたいじゃないか。色んな意味で。
チョコレートは剥き出しの状態で手渡されたので、てっきり手がベタベタするかと思っていたら、そんなことはなかった。
コーティングがされているのだろうか。幾ら指でつまんでいても、溶ける気配がない。
しかも、指で少し押しつぶしても元に戻る。弾力性が半端ないチョコレートだな……。
けれど、見た目は非常に整っていた。
小さな円柱状のチョコレートで、表面には銀色のキラキラした小さい玉が散りばめられている。アラザン、だったっけか。
「じゃあ、いただきます」
俺は口を開け、チョコレートを近づける。
……けれど、そこでおかしなことに気付いた。
このチョコレート、甘い香りが全然しない。
それどころか、何か、プラスチックのような匂いが……。
「待って待って栖原君!! 何で食べようとするの?!」
藤田さんは俺の腕を掴み、顔から引き離す。
突然のことに驚いた俺の視界の端には、チョコレートに引っ付いていたアラザンの輪がちらついていた。
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