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ケータイやらゲーム機やら持ってきていれば、この世界ではかなり珍しい物だから高値で売れたり取引できたかもしれないのに、それすらも持っていない。
異世界転生もの、異世界転移もの。
憧れはしたものの、いざ自分が本当に異世界に来てしまったら自分の無力さを嫌でも実感してしまう。
というよりは目が覚める。
現代知識だったりその他役立つ知識なんてものは、こちとら取り揃えていない。
よくよく考えれば、そんなヤツが魔王討伐やらドラゴン退治やらできるはずが無かった。
もし冒険者になれたとして、剣や槍やら到底扱いきれるとも思えないし。
異世界に来てから少々浮かれすぎたか……。
そう物思いにふけっていると、今度はマイが口を開いた。
それも、俺とは対になるように、自信満々といった雰囲気で。
「この先どうすればいいか? ふん。そんなもの、言われずとも理解しているものじゃと思っておったが、よもやそんなことすらもわからぬとは……。お前はホントに戯けじゃなぁ。そんなことでは、『先』が思いやられるぞ?」
「……先?」
「そうじゃ、『先』じゃ。お前が何に対して絶望しとるのかは知らんが、お前が想像しとる以上にこの世界は広いぞ? なんてったって、今では『勇者は居らずとも魔王は居る』状況なんじゃからな」
幼女は口の端を上げながら、俺の瞳を見つめている。
……この幼女、まさか俺の考えたことがわかるのか?
そう思えるほどにマイは、俺が『勇者がいない』ことと『魔王が死んだ』ことに対する思いが強いのを見抜いているようだった。
あからさまに態度に出ていたからというのもあるだろうが、そうでは無くマイは俺の心を読んでいるような、そんな感覚が幼女の瞳を通して感じられた。
──わかっている。心配するな。
そう言われたような気がして、俺はマイから目を離すことが出来なかった。
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