70人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「おはよう。」
俺が声をかけるといつも一瞬びくりと体を振動させて、彼は小さな声で「…おはよ」というのだった。
彼は背が高くて、猫背で、髪が長くて、何か他の人間と違う特別な独特な雰囲気を醸し出していた。
夏休み中。
部活で夕方教室に荷物を取りに行くと、誰もいない音楽室でピアノの音色がした。
怖い話が大好きな俺は怖いもの見たさで音楽室を覗き込んで見た。
吹奏楽部も軽音楽部もいない音楽室にヨネヅケンシの『Lemon』が響いていた。
「…すげー。誰だろ…」
弾いていたのは、山本明人だった。
独特の雰囲気なのに、その音色の繊細さ、美しさというギャップに俺は一瞬にして心を持って行かれた。
夏休み明けて一発目の席替えで隣の席を申し出た。
目も悪くないのに伊達眼鏡を持ち出して目が悪いフリをした。
このクラスをまとめているつもりでいる河野が最初はからかってきたけど、俺はそんなことどうでもよかった。
山本と話がしてみたい。
ただそれだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!