序章

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序章

 空の色が次第に黒から紫、そして赤の混じった青に移り始めた。夜の間、地上を青白く照らしていた月は地平線へと滑り落ち、太陽が顔を覗かせる。  そんな時間帯。マラミヤ王国の首都、その中心にある白亜の――しかし今は朝日を浴びてほんのりと赤く染まっている美しい王城。そこで、夜勤の仕事に就いていた衛兵が一人、あくびを漏らし、上司に頭を叩かれた。城の外ではパン屋の女主人が夫を叩き起こし、今日の仕込みを再開させる。  平和で、のどかな光景。幸せな毎日。  ――しかし誰も、その幸福を支えている人々の苦しみを理解しようとはしなかった。
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