一章

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 はぁ、とため息をつくと、体を起こして簡単に身だしなみを整えた。ここにいるのはほとんどが国から、世界から追われる魔法使いたちだ。なかなか衣服など街で売っている物を手に入れることはできないため、魔法使い以外の、いわゆる普通の人は寝るときと普段で服を別にしているらしいが、そんなことをする余裕すらなかった。基本毎日同じ服で過ごしている。代わりに魔法を使って高速で洗い、乾かすのだから、まぁ十分だろう。  そんなことを思いながら靴を履き、テントの外に出た。その瞬間気温がガラリと変わり、一瞬にして肌寒い空気がまとわりついてきた。春先といえど、やはり朝となるとまだ寒い。鳥肌の立つ二の腕をさすり、エルカは煙の立ち上る場所へ向けて歩き出した。  この更地は綺麗な円を描いており、中心にはここに暮らす人全員が座れるだけの大きな机と椅子があって、それを囲むようにして個々人のテントがあった。三年前にここに来たばかりのエルカの寝るテントは更地の隅の隅にあり、中心にたどり着くまでは少しだけ時間がかかった。  中心にたどり着くと、そこではすでに何人かの料理担当の男女がいた。その中に比較的親しい二人の姿を見つけ、近寄る。 「ナーシャ、リリ」  声をかければ二人は料理をしながらくるりと振り返り、そして眩しいほどの笑顔を向けてきた。  二人ともエルカと同じ魔法使いで、ナーシャは腰まであるほどの鳶色の髪を持つ女性だ。その髪は波打っており、出るところは出た体型とも相まって大人の色気を感じさせる。     
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