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「なんか少し変なこと言ってるやつもいるが、TKGと言えばそう! 『時をかけるゴリラ』だ」
坂口の聴力は異常に良かった。それは二キロ先の家の中でのコソコソ話をも聞き取れるほどのものだった。
結果、自分のクラスの生徒達の答えに『時をかけるゴリラ』というワードはなかったのだが、他のクラスの担任が口にした『時をかけるゴリラ』というワードを拾ってしまったのだ。
聞き慣れない『時をかけるゴリラ』という言葉に生徒達はドン引きしてしまっている。
ドンマイケル。
「ということで早速『時をかけるゴリラ』という話を読んでみようと思う。みんな教科書十ページを開いてくれ」
生徒達のドン引きを一切気にしない坂口。彼のこのメンタルの強さも、生徒達から人気を得ていた理由の一つであった。
坂口の指示通り十ページを開くと、そこには一頭の寂しそうなゴリラと眼鏡を掛けた少女の姿が描かれていた。
***
遠い遠い昔。人類がまだ四足歩行をしていた時代。
木や花、草などもほとんど生えていない、物寂しい荒野に一頭のゴリラがいた。
そのゴリラは、元は大きな群れを率いていた勇ましいオスのゴリラだった。
だが、今は彼の周りに生きた仲間達はいない。彼の周りにあるのは黒い毛に覆われた只の肉の塊だった。
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