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「ねぇ、ひとつでいいからちょうだいよ」
「うーん、どうしたものか……」
赤いワンピースが似合う美女は、白いシャツに紺色のベストを着た美青年の腕を引っ張りながら懇願する。
「ねぇってば……。ひどいわよ、見せておいてくれないなんて……」
美女……ユリカは頬を膨らませると、ベッドに腰掛けた。勢いよく座るものだから、ゆるく巻いたナチュラルブラウンの長髪が、ふわふわと揺れた。
「いや、眺めていたら君が入ってきたわけで、見せたわけじゃ……」
美青年……イクトは困ったように頬を指先でかく。
さて、ふたりがなぜ揉めているのか?それはとてもシンプルな問題である。
イクトは自室で小さな箱を見つめ、物思いに耽っていた。その箱の中にはひとつひとつ可愛らしい銀紙で包装されたチョコレートが、行儀よく並んでいる。
そこに恋人であるユリカがノックもせずに入ってくると、チョコレートを見つけてねだっている。イクトは彼女にチョコレートを食べさせるかどうか、先ほどから迷っているのだ。
「ねぇ、そのチョコ、そんなに悩むほど高いわけ? それともウイスキーボンボン? 私、平気よ? イクトが自分のご褒美に買ったっていうなら、諦めるけど……」
ユリカはあれこれ考察しつつ、どうにかチョコレートがもらえないかと苦心する。
それほどまでにイクトが持っているチョコレートは、魅力的に思えた。
どちらかというとビター系のチョコレートが好きな彼だが、手元のチョコレートの銀紙は、ピンク色や水色で、とてもビター系チョコレートを包んでいるようには思えなかった。
どんなチョコレートなのか想像しながら、ユリカは離れたところから可愛い銀紙を見つめる。
「別にさ……」
悩ましげな顔をしているイクトは、ようやく口を開いた。
「別にひとつくらい、あげてもいいと思っているんだ。というかこれは、一応君のために用意したものではあるのだけれど……」
イクトは歯切れ悪く言いながら、視線を宙にさ迷わせる。
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