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ご近所トラブルはできれば避けたい。誰だってそうだろう。私だってそうだ。
するとどうだろう。
そちらも中部屋の住人のひどい騒音で困っていますよねという同意もとい探りをいれる私の問いかけに、右角部屋の住人はきょとんとした顔でこちらを見ながら言ったのだ。
隣は空き部屋のままのはずだ、と。
ここには長く住んでいるが隣の部屋はだいぶ前から誰も住んでいないと思う。電気がついているのも見ていないし物音ひとつ聞こえない。新しく入居した気配もない。あなたの下の部屋の人なのでは。詳しくは知らないがたぶん一階にもうるさく騒ぐ人はいないはずだけれど、と。
そんな話を聞かされ、返す言葉を失っている私を後目に用事があるのでこれでと右角部屋の住人はさっさと階段を下りて行ってしまった。
歩みを進めることもできず中部屋の玄関そして玄関横の窓に目をやる。日暮れをだいぶ過ぎた時間だというのに中の電気はついていない。記憶を辿ればこれまでここに明かりついていた日はなかった。そういえばそうなのだ。
自分も含めアパートの住人はみな表札をつけておらず階段下の郵便受けも部屋番号のみ。てっきり隣には引っ越しの挨拶にも来ない多少失礼な人間が私の数週間後に住み始めたのだとばかり思っていた。思い込んでいた。
足元の私の影は共用廊下の蛍光灯に照らされ二重にぼやけている。ここは二階部分、当然下の一階にも住人がいる。
(そうか隣というのも騒音すらそもそも自分の勘違いだったのかもしれない。もし騒音が事実であったとしてそれは階下の住人の可能性もあるのだ。だとするなら真下の住人にはどう話をつけよう。
それにしても右角部屋の住人はこれから用事だなんて、夜勤の仕事でもしてるのだろうか……あれ、さっき『たぶん一階にもうるさく騒ぐ人はいないはず』という話を聞いたような気がするが……。
まあいい、後で考えよう。なんだかとても疲れた。)
なんとなく安心してしまい、あくびをしながら部屋へと戻ればスマホの画面を眺めているうちにうつらうつら眠ってしまっていた。
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