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温室
蜂蜜色の真鍮で縁取られた玻璃の温室に曙光が射し込んでいた。
リビングの横合い、張り出した箇所にその温室はあった。
春の靄が温室の中にまで漂い、中にある瑠璃茉莉や胡蝶蘭などの茎葉にまで漂うようだ。いずれも花の時期ではない為、その花びらが艶やかに湿ることもない。
猫の咽喉を優しく撫でくすぐるような声で樹人は起こされた。
「またここで寝たの?」
温室の中にある長椅子の上、毛布にくるまり微睡んでいた樹人は、瑠璃の存在に余り頓着せずもぞもぞと身動きすると緩慢な伸びをした。昨夜の瑠璃の舌の熱いような冷たいような甘さがまだ残っているようで、樹人はふと咽喉に手を遣る。
青く淡紅でもある曙光は玻璃を透かして二人を照らす。
瑠璃はもうセーラー服に着替えている。臙脂色のスカーフが綺麗に結ばれていて、その隙のなさに樹人は不意の苛立ちを覚えて乱したくなる。昨夜の瑠璃を思うと尚更だ。
「植物の傍だと落ち着くんだ」
「風邪をひくわよ」
「平気だよ」
「坂崎さかざき先生が心配なさるわ」
その名前がまた樹人の苛立ちを喚起した。
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