温室

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 坂崎は樹人と瑠璃の双子を気遣う様子を見せながら、瑠璃に秋波を送っている。  少なくとも樹人にはそのように見えた。 「坂崎なんてどうだって良い」  樹人はそれまでの緩慢さが嘘のように勢いよく起き上がると毛布を払い除けた。淡い青の毛布ははらりと温室の床に落ち、曙光の色をより強く受けて複雑な色の混じり合いを呈した。  そして物も言わず瑠璃の手首を掴み、白い手の甲をぺろりと舐める。瑠璃は大人しくされるままになっている。瑠璃が樹人を拒むことはほとんどない。承知の上で樹人は甘えていた。手の甲を舐めたのは樹人なりのマーキングだ。 「瑠璃の声は金糸雀(カナリア)」 「またそんなことを言って」 「瑠璃の肌は水蜜桃」 「樹人。好い加減に着替えなさい」 「瑠璃が着替えさせてよ」 「……」 「瑠璃」  樹人の抜かりのなさは制服をきちんと温室に畳んで置いたことだ。  樹人が生成り色の寝間着を恥じらいなく脱ぐ横で、瑠璃は樹人の制服を手にする。  少年の肌は少女に負けず石膏のように光孕む透明感で、そして自らの肌をわざと見せつけているのだと瑠璃には解っていた。樹人は隙あらば瑠璃を誘い込もうとする。昼夜を問わないことも考え物だった。  白いシャツを樹人に着せ掛ける。樹人の視線は瑠璃から逸れず、凝視することで瑠璃を淡い辱めに合わせている。闇のように黒い詰襟の(ボタン)を一つ一つ留めていく作業は厳かな儀式にも似て、瑠璃は軽く唇を噛んだ。昨夜のことが思い出されたからだ。  着せ終えると、樹人はどこか物足りなさそうな顔で嘆息した。望みを果たしたのであろうにと瑠璃は思いながら温室の曇りない玻璃を眺める。果実めいて色づいた唇は半ば開かれている。昨夜は否応なしにそのあわいに樹人の舌が侵入してきた。その感触を思い出して瑠璃は頭を一つ振ると、温室を出るよう樹人を促した。
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