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彼は生まれつき気管支が弱く、咳き込むことがよくある。他は至って丈夫で、運動などもよくするほうなのだが、こればかりは如何ともし難かった。樹人の存在の多くは双子の姉である瑠璃に依拠していた。学校をさぼることに罪悪感はないが、瑠璃のいない家は、やはり侘しいものがある。
帰宅してリビングに現れた瑠璃に、樹人は盛大に甘えた。
抱き締めると甘い香りがする。瑠璃は温室の花にも負けない。
リビングに置かれた深緑色の天鵞絨のソファーは、瑠璃という花を受け止める野原だった。仰向けになった瑠璃は落ち着いた瞳で弟を見上げている。
「逢いたかった」
「朝、逢ったわ」
「逢いたかった……。坂崎は何か言ってた?」
瑠璃の髪を手で梳きながら、こんな日に限って坂崎の名前を自分から出してくる樹人が瑠璃は恨めしい。努めて冷静を装う。
「早く良くなるようにって」
「それだけ?」
「ええ」
「嘘だ」
途端に樹人の声が冷厳になった。征服者の眼差しで瑠璃を見下ろす。
瑠璃のスカーフの結び目がしゅるりと解かれる。逃れようとする瑠璃をきつく抱き締め、首に噛みつく。ソファーの軋む音。
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