チャリン!

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 彼らの宗教の神様を“正しく”信じない者は全て背教者であり、天罰が下って然るべき存在――であるのだという。彼らの悪行は目を覆いたくなるものばかりだ。自分達の邪魔をした反政府組織の人間を生きたまま切り刻んで殺したり、半殺しにして野鳥の餌にしたり。同時に、他の国の支援が途絶えた結果、一般市民は常に飢えと病に苦しんでいるのだそうだ。神の使徒であるテロ組織の幹部たちがたらふく牛や鳥の肉を食っている横で、ガリガリに痩せた貧民の子供がボウフラの涌く水を飲んでいるのだという。――コーチさんは、そんな民を一刻の現状を世界中に発信し、一人でも多くの無辜の民を救いたいのだと、そう考えているのである。 ――さすがコーチさん、すごいよなぁ。……トーワなんて、今一番危険な国なのに。それでも命がけで行って帰ってきちゃうんだもんなあ。  コーチさんがトーワに渡るのはこれが初めてではない。彼は何度も危険な目に遭いながらも、多くの危険な土地を巡っては真実に向けてシャッターを切ってきたのである。  僕にとって彼はヒーローであり、憧れの的だった。  僕が大学に通いながら、必死でアルバイトしてお金を貯めているのは。いつか僕も彼のアシスタントとして、世界平和のために尽力したいと願っているからだった。大学在学中から自分の熱意と写真家としての力量を買ってくれていた彼は、卒業したらぜひ一緒に活動しよう!と誘ってくれている。僕に出来ることは、それまで彼の期待を裏切らないよう技術を磨き知識を身に付けること。それに必要なお金を、規定額まできっちり貯めておくことだった。 『楽しみにしてます!定時報告待ってますねー!』  トーワ共和国と日本の時差は、ほぼほぼぴったり十二時間。日本の方が十二時間進んでいる計算となる。彼はいつも現地時間の十二時――つまりこちらの二十四時に写真をアップしてくれるのだった。一枚の時もあれば、数枚の時もある。政府が情報規制に熱心でないのかそれとも抜け道があるのかはわからないが、ツニッターを使えば現地からリアルタイムで写真を送り続けることもできるらしかった。危険な土地であっても、こうして彼の無事を知ることができるのは非常に有り難い話である。文明の利器とは素晴らしいものだ。
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