夏休み

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 ここに来ると決めて、沖村がケーキ屋によると言い出した。手土産を持っていこうと。俺は今までそんなこと持ってったことねぇだろって指摘すると、自分ちには誰もいなかったからいいんだ。とかってな理屈を捏ねた。  ほんと、いいところどりっつぅか、抜かりねぇっつぅか。悔しい。 「夕食もう少しでできるから、手を洗ったら部屋で待っててね。できたら呼ぶから」 「ありがとうございます」  智子さんにそう言われたので、自分用に作ってもらった一室へ案内する。  最初に出してもらった客用布団とコタツ付きのローテーブル。それだけのシンプルな部屋。収納棚も必要かと聞かれたが、特に今のところいれるものもないので断った。ベッドも、この布団を貸してもらえるなら十分だからと言って断ってしまった。  どこまで甘えてしまっていいのかわからない。必要なものは買うといってくれているが、必ず必要かと言われたら戸惑うものばかりで、結局テーブルと布団カバーくらいだ。 「いい部屋じゃないか」 「ん。十分すぎるだろ。・・・・・・たぶん、将来子供部屋にするつもりの部屋なんだろうな」 「じゃあ、問題ないじゃないか」 「は?」 「お前も、あの人たちにとって子供だろう」  沖村の言葉に俯く。  それは、どうなのだろうか。 「おっさんにとっては、まぁそうなのかもしれないけど。・・・・・・智子さんにとっては、違うだろ」  智子さんが優しい人だから受け入れてくれてるけど。突然こんな大きな子供の母親役なんて与えられても困るだろう。
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