即興劇

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即興劇

「各地に残る伝説を現代風に蘇らせる、そういうことに決まりましてねえ」  どこか懐かしむような口ぶりで、唐沢陽介は言った。 「直近ですと、奥州安達が原ですか」 「ああ、黒塚ですか」  良く磨かれた舞台に、演者の姿はない。静まり返った舞台を前に、私たち二人は立ちつくしていた。熱気がこもって息苦しいので、私はシャツのボタンを外した。何事も、期待通りにはいかないものだ。 「ちょっと失礼しまして」  私の様子を見た唐沢が、引き戸を開けてくれた。さっと心地良い風が室内に吹きこんだ。午後の強い光線に、舞台の使い込まれた板敷は飴色に染まった。 「しかし、がっかりなさったでしょう。折悪しく公演が重なっておりまして、団員はみな出払っております」 「いえいえ。こちらの勝手次第にもいきませんから。こうしてお話を頂けるだけでも有難い」  私は曖昧に言葉を濁した。事前に取り付けた約束とは異なり、甚だ要望に沿わぬ形ではあったが、私はここへ来たことを後悔してはいなかった。     
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