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件の変わった人というのは、母の遠戚に当たる男性らしかった。唐沢というその人物は、母の同級生であったから、在学中には幾分の交際があったらしい。なんでも、非常な女ったらしであったということである。
母の話は右へ左へと曲折しながら、唐沢自身の沿革というよりは、その人物評を専らとした。色事は唐沢という人物を語るに、切っても切り離せない事柄らしい。記事にまとめるかどうかは別として、そういった話題は私としても願ったり叶ったりだった。
演劇サークルを主催していた唐沢は、在学中に数々の風紀事件を引き起こしたという。サークルに所属する女性の妊娠騒動は、一度や二度のことではなく、いわゆる御手付きになった女性は内外を合わせて十指に余るほどだったそうだ。
そんな具合だから、演劇サークルは彼らの卒業を待たずして解体され、唐沢は諸々の旧悪も露見して、大学から放逐された。
「誰にも言ってないけど、唐沢君が大学を追われるように手引きしたの、私なのよね」
「変に匂わすなよ。息子にするような話じゃない。想像したら、気持ち悪いだろ」
「あら、唐沢君とはなにもなかったわよ」
母親の色話など聞きたくもなかったので、私は先を促した。母は物足りないようであったが、渋々話を進めた。
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