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背中に暖かい木漏れ日が当たる春 蝉達が大合唱し 汗が頬に伝う夏 緑から彩やかに染まった葉が床に敷き詰められる秋 鼻を掠める風とポッケの中の温かさを感じる 冬 3年間様々な季節を3度辿った中でその季節を思い出す情景に君はいつも居たのだ。君がいつもいるのは1番線ホームの待合室 向かい側の席の後には 柵をはさんでおおきな木が1本あって 君はいつもその前の席に座っていた。木と君が重なる姿を何度も見ていると 君と季節を関連付けるのなんて当たり前のことなんだ。硝子越しに木が変わっていくのを毎日見てたら君のことも毎日見てしまう 多分これもきっと仕方の無いことなのだ。
朝の1番早い時間に君と合う 毎日眺めてるうちに二人しかいない待合室で電車を待つ数分間が僕にとって落ち着く時間だった。まぁ君は僕のことなんて読書に夢中で知らないだろうけど、実は中学に上がった当初から始まった二人きりの時間は3年間ずっと続いたのだ。でもこれも今日で最後 、今日は卒業式だ。卒業式自体は別に悲しくも感傷的でもない 何故なら僕が通うのは中高一貫校なため別れなど殆どないのだ。ただ、君は高校に入れば電車も時間も変わってしまうかもしれない いやきっとかわるだろ
嗚呼 君と話すことは一生ないまた終わるのか そして君との時間を過ごすことも そう思った瞬間 どくんと大きく心臓が脈打つ音がした 。それと同時に これでいいのか?と自分に問いかけてくる自分もいた。それでも 僕は弱虫で 話しかける勇気なんて出なかった 。あれ?でも可笑しいじゃないか 話しかけられなくなって 後悔なんてしないはずだろ。だってそうだろう? 話したことすらなくて 学校も知らない、なにも知らない相手なのに 同じ男だから話しかけられても嬉しくないだろうし そもそも 1度も話しかけたことのない男が話しかけたら可笑しいじゃないか そう自分を納得させて 大して感動のしない卒業式を僕は悶々としたまま 無事に終えこのまま 高校生になっていくのだ。新しい出会いに期待を覚えつつもこの出会いが無くならないように願いながら。とある季節が終わりまた始まる
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