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第1章:CLOVERの惨劇より
1-①:CLOVERの惨劇より
『たいひ~!退避だあああ!!!』
怒鳴り散らすかのような叫び声。飛び交う銃声。
「うああぁ!」
聞き覚えのある声
その声に、振り返れば目に入ったのは腹を押さえて地に伏す兵士
それに誰も反応しない感情を失った能面のような顔
機関銃のけたたましい音
あいつを助けないといけない
あいつを助けないといけない
あいつを助けないといけない
久しく忘れていた感情
しかし、数秒の逡巡の後、すっと凪いだように冷静になる
助けて一体どうなる
助けても、また同じことの繰り返し
―繰り返し
男はあきらめたようにつぶやいてその光景から目をそらした
進んでいるはずなのに ただ同じ景色が繰り返される
希望 絶望 希望 絶望
閉じ込められた回転盤の中をただ走り続けている
この世界から抜け出せる方法などない
―もう疲れた
この世界で生きることに何の意味があるのだろうか
それでもここで生きなければならないのなら、それは誰のためで何のためなのであろう
一際大きな轟音が上がった。あいつが倒れていたところに火柱と土煙が立ちあがったところだった。
―ほらまた
「……………」
どうせ何かを失い続けるしかない
この手で一度は守ったものも
すくった指の間から水が落ちていくように、やがてそれは無くなっていく 消えていく
だから何も守らないと決めた 守ったものが消える絶望から、自分の心を守るため
なのに
「……くそっ」
どうしてこんなにも心が痛いのだろう
「…もう消えろ…何もかも消えてしまえ!」
どうせ消えてしまうのなら、いっそのこと何もかも消えてしまえ
光の見えない絶望も
もしかして、と期待させるだけで消えてしまう、わずかばかりの希望も
目に映る世界を道連れて、全部消えてしまえばいい
そうしたら、きっと痛みというもの自体が消えてくれるから
―これで、終わりか
冷たい土の上、満天の星空は瞳に映っていても、もう男の感情は何も動かない。
手榴弾の金具を噛み、一息にそれを引きぬく。やっと終われるという安堵のその後で、一瞬だけよぎった虚しい望み。
「もういちど、会いたい…」
もう無理なのはわかっているけれど。
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