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手相占いでもするのだろうか。セシルは占いなどという胡散臭いことにお金を払う気にはなれず、しかしあまりにも老婆がにこにこと笑っているので断るのも悪い気がした。だから、高額な値段を吹っかけられたらその時は逃げようと思いつつ、おずおずと手を出す…
―ソイツニチカヅクナ
「…っ!!」
セシルはびくっとして手を引いた。誰の声だ?セシルはあたりをきょろきょろと見回すが、老婆以外誰もいない。
「……」
しかし、老婆は急に口を閉ざし、セシルを見る目つきが鋭くなった。厳密に言うと、セシルの肩越しに何かを睨みつけていた。
セシルは不気味に思い、引いた。「すまんがいま手持ちがないんで」と適当にあしらって帰ろうと背を向けた時、不意に老婆がセシルの肩をつかんだ。
「○○、○○。○○○○○」
「……!」
聞いたことのない言語で呼びかけられた。その直後、ぞくりと体が震える。何か胸の奥にあるものをつかまれたような気がしたのだ。振り向けば自分を―厳密に言えば、自分の肩越しをまっすぐに見る老婆。皺の隙間から鋭い眼光が光っている。
「…な、何だよ一体?」
やっとのことで言葉を紡ぐが、何かが心の奥底で縛り付けられ、のたうちまわったかのような心地がした。そして、急に心が軽くなった気がした。
「これで、しばらくは大丈夫じゃろう。気休めじゃがな…」
セシルから手を離すと老婆は、仕事は終わったとでもいうかのように、ふうと息をつき額の汗をぬぐう。
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