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屋敷が立っている丘の下から、ちらちらと街の明かりがついているのが見える。何となく触って落ち着きたくなったので、セシルはネックレスの先を襟の内から取り出した。それは金色に輝く、魔術文字の刻まれた男物の指輪だった。
「あいつが生きていたら、こんな今の情けないオレになんて言うんだろ」
8年前。返り血でぬれた自分を、抱きしめてくれた赤毛の男。元から赤毛なのか血で赤くなってるのかわからないくらいのなりで。お前が今にも死にそうなのはオレのせいなのに、オレが泣きつかれて眠るまで撫でてくれた。
「どうせ、またオレは悪くないって言ってくれるんだろうな…」
あいつは馬鹿みたいに優しかったから。セシルはふっと目を伏せて、指輪を握りしめる。そして、寂しそうな笑みを口元に浮かべた。
「もうあいつも養父上も死んだんだもんな…それぐらいあれから時間がたったんだな」
命を懸けて自身を救おうとした彼ら。彼らが死んだ今、もう頼ることのできる人はいない。
彼らが救ってくれたこの命。大切にしなきゃいけないとは思う。
―でも本当は
セシルは寂しくほほ笑む。
―もう逃げたい
命と引き換えにアイツに立ち向かって行ったなら、オレは死ぬことを許されるのだろうか。
「……」
見上げた先にあるこの素晴らしい満天の星空を、同じ心地で見ている人はきっといないだろう。
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