982人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話 夜這 ★
幾日振りだろうか。
香彩は竜紅人と共に、夕餉を取ることになった。屋台から漂う美味しそうな匂いに、耐えられなかったというのもある。
一緒に食べないかと、誘いをかけてきたのは竜紅人の方だった。それだけで心が浮付き、喜びを感じてしまう自分に、香彩は再び嫌気が差した。
忘れると、この心は捨てると。
決めたばかりだというのに。
竜紅人と何気ない会話をしながらの食事は、やはり楽しいものだった。
話が盛り上がり、酒も入ったところで、竜紅人が用を足しに席を立った。
隙を見て香彩は、先程処方されたばかりの眠り薬を二包、竜紅人の酒の中に入れる。強めの眠り薬だと麒澄は言っていたが、果たして人用の薬が竜紅人に効くのかは不明だ。
竜紅人は人ではない。
真竜と呼ばれる、竜の一族だ。
最近は滅多に見せることをしないが、その本性は蒼い色をした蒼竜だ。
竜紅人が席に戻り、何の疑いもなく酒を飲み干す。嚥下する喉の動きを見て、罪悪感に苛まれた。
悪いことをしているという自覚はあった。
だかそれ以上に、香彩自身がもう限界だった。
竜紅人が店主に再び注文をする。
お前は？ と聞く竜紅人に、香彩は無言で首を横に振った。
紅麗から城までは、街道と呼ばれる道で繋がっている。
大人の足で早朝から出発し、日が傾く頃合いに到着する程の距離があった。
その日の内に香彩と竜紅人が城に戻って来れたのは、竜紅人の飛翔能力のおかげだった。
ふらつく竜紅人の身体を支えながら、城の一層目にある『司冠』に与えられた私室の寝台に、竜紅人を寝かし付ける。
飲み過ぎたと、すまないなぁと話す竜紅人の呂律がだんだんと回らなくなり、やがて彼は寝てしまった。
薬はどうやら効いたようだった。
しばらく様子を見て、竜紅人が深く寝入ったことを確かめた香彩は、勝手知ったる何とやらで、衣着をしまう衣装櫃から、竜紅人が使っている帯を三条、取り出した。
万が一起きてしまうことがあっても、誰か分からないようにと、帯の一条で両目を覆う。
間違いなく抵抗されることが容易に想像がつくので、残りの二条で手足を縛る。
震える手を一度ぐっと握り締めてから香彩は、竜紅人の帯を緩めて、穿きものを軽く下へとずらした。
現れた物に、興味と恐ろしさで、ごくりと喉を鳴らす。
自身がこの慕う心を自覚するまでは、共に城の大浴室に入っていた。香彩の父親は仕事の忙しい人であった為、物心ついた時には竜紅人が当たり前のように側にいて、香彩の面倒を見ていた。共に湯殿へ行くことなども日常のひとつだった。
何度も目にしていたが、今のようにじっくりと見ることもなかった所為か、香彩の心の中を妙な緊張と昂りが占める。
触れてみて、その熱さに驚く。
垂れる横髪を耳に掛けて、香彩は根元のまだ柔らかい部分を、愛おしそうに口付けた。
＊＊＊
ここまでお読み下さりありがとうございます。
こちらの続きはエクレアノベルス様より、『竜の御手付きー蒼竜は愛し子への愛に溺れるー』として、電子単行本が配信されております。
この二人の行く末が気になった方、どうぞよろしくお願い致します。
最初のコメントを投稿しよう！