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城下街、紅麗。
麗城から少し離れた位置に存在するこの街は、麗国の中でも一番の賑わいと人が溢れる、首都とも言える街だ。
その広さは街道と、それを取り巻くように建つ、小さな集落や宿を含めると、国を四つに割った内の一つ分程になる。街道は少しずつだが整備され、今では南の国の国境でもある、大きな山脈の麓にまで広がっていた。
街道とそして街のいたるところに、『紅麗』と呼ばれる、魔除けを施した紅の紙を燃やす燈籠があり、人々を魔妖と呼ばれる『人ならざるもの』から護っている。
『紅麗』がある場所での旅は比較的安全であり、また足元の見えない夜道を照らしてくれる、街灯の役割も果たしている。
この街の名はこの『紅麗』からついたものだ。
夜になっても決して眠ることのない、燈された『紅麗』の明かりが、ぼんやりと夜の世界を彩り、昼とは違った別の顔を覗かせている。
紅麗の中心部は昼間は活気溢れる市だ。
様々な品物や食べ物が並び、売り子たちの張りのある声が響く。
だが夜にもなればそこは、歓楽街へと変わる。酒造屋を始め、薬屋や春画を売る屋台が出、遊楼へと誘う店子達の粋な声掛けが始まり、昼間とはまた別の活気に満ち溢れる。
そんな紅麗の中心部から少し外れた、『紅麗』の明かりの届きにくい暗がりの場所に、薬屋『麒澄』はあった。
「……出来れば、薬には頼って欲しくないんだがなぁ、香彩」
葉煙草を燻らせながら、呆れたような、だがどこか憐れむ色を含んだような目で、香彩と呼ばれた少年を見るのは、三十も半ばを過ぎた男だった。
名を麒澄といい、この薬屋の主だ。
元々は魔妖や竜や鬼といった、人間以外の薬を専門に扱う薬屋だったが、その腕の評判が評判を呼び、依頼があれば人用の薬も作る。
だがその代金は金銭ではない。
物々交換をすることもあるが、多くは『その薬を使う理由』に、麒澄が興味を惹かれるか否かだった。
理由に惹かれない場合、薬作りを断ることも多く、妥協は一切しない。
そんな彼が充分に興味を引く材料を持っているのが、苦笑いで薬を受け取る香彩だ。
白の布着に、紅紐で胸と長い袖部分に縫い取りの装飾を施してある、縛魔服と呼ばれる正装を着込んだ少年の、高く結い上げ背に落ちる、春の宵の春花のような藤紫の髪が、動きに合わせてさらりと揺れた。
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