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香彩の持ち込む材料は、麒澄にとって時に刺激的であり、時に危険なものでもあり、充分に楽しませて貰うことが多かった。
だか今回ばかりは流石に心配だった。
もう幾度目になるのだろう。
こうやって香彩が薬を取りに来たのは。
「毎日飲んでるわけじゃないから大丈夫だよ」
「……もう毎日、というわけではないんだな」
麒澄の言葉に、香彩は無言で頷く。
「今はどれくらいの頻度なんだ?」
「……四日に一回くらい」
何かを諦めざるを得なかった、そんな表情を浮かべたまま答える香彩の頭を、麒澄はたまらず、くしゃくしゃに撫でた。
何するのと不機嫌な顔になりつつも、その憂いは決して晴れることはない。
眠れないのだと香彩は言った。
彼が城からいなくなる夜は、どうしても眠れずに夜を明かすのだと。
だから麒澄は与えたのだ。
一時の夢を見る眠り薬を。
だが慣れもあってかその効果は少しずつ薄れ、今では強めの薬を処方している。
それでもやはり眠れてはいないのだろう。
香彩の顔色はあまり良くない。
たとえ薬の力で眠れたとしても、心の中の叫びに蓋をして、見て見ない振りをしていれば、いずれ身体に異常をきたすのは目に見えている。
眠れない理由を解決することが、一番の近道なのだ。
だが香彩自身がそれを望んでいないのだと、麒澄は気付いていた。
『眠れない理由』を『解決』することが、今まで築き上げてきた関係そのものを壊すことに繋がるのならば、香彩はたとえ自身が潰れても、解決することはないだろう。
香彩が十八になった日から、ひっそりと、まことしなやかに広まる噂がある。それは意外性も伴って、少し離れた紅麗にも拡がりを見せていた。
竜紅人が紅麗の遊楼通いをしている、と……。
彼は香彩の想い人だった。
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