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『淫花廓』の敷地内は現代の法治国家にあるまじき、治外法権となっている。
ここには独特のルールがあり、客と雖もそれに則って動かなければならない。
まず、『淫花廓』では電子機器の持ち込みは禁止されている。
携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットなどなど……そういった、外部との通信手段として用いられる類のものは、受付で回収される。
たとえ隠し持っていたとしても、この辺り一帯には妨害電波が通っており、使用はできないのだった。
さらに、男衆、と呼ばれる能面をつけた屈強な男たちが遊郭の至る所に控えており、客は、『淫花廓』のオーナーか、もしくはこの男衆の言うことは必ず聞かなければならない、とされている。
いくら客やその相手がイエスと言ったとしても、男衆がノーと言えばすなわちそれはノーとして扱われる、というわけである。
この『淫花廓』には、二つの建物が中心に据えられている。
『しずい邸』と『ゆうずい邸』。間に2メートルほどの川を挟んで隣同士に立つその建物は、古い旅館のようでもあり、外壁の赤や緑の色遣いは、旅館ではあり得ないみだりがましい気配を濃厚に漂わせていた。
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