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「あの子がいいな」
格子の外から客の男が指差してきたのはアオキの隣に座るアザミだった。
アザミはここ、淫花廓の『しずい邸』で一、二を争う人気の男娼だ。
美しい容姿はもちろん、高慢さや鼻っ柱の強さが売りのアザミは、彼に罵られ踏みつけられたい願望を持つマゾ気質な客からの人気が高い。
同じしずい邸の男娼たちの中にはアザミの事を我が儘だ何だと言って目くじらをたてている奴らもいるが、彼の成績を前にしてはぐうの音も出ないのだろう。
オーナーである楼主さえも黙って見過ごすほどだ。
アザミはほくろのある口元に妖艶な笑みを浮かべると、スッと立ち上がり、打ち掛けを翻してアオキの前を横切っていった。
格子の中の選ばれなかった数名の男娼のほとんどは顔馴染みのものたちばかりだ。
その中にアオキは必ずといっていいほど紛れていた。
落ちこぼれ男娼のレッテルを張られた男娼たちは、客たちと寝屋に励む売れっ子男娼の繋ぎの相手などに使われたりもする。
しかし、アオキにはそれすらも廻ってこない日の方が多い。
親の借金の肩代わりのため、ここ淫花廓のしずい邸に入ったアオキは当初、楼主に売れる顔だと褒められた。
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