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淫花廓
私有地、と書かれた車一台の幅の、木々に囲まれた道を進むと、突如として赤い欄干が現れる。
さらさらと流れる小川の上にかかる、このゆるやかな山なりの橋。通称を、『戻り橋』という。
あの世とこの世を繋ぐ橋、として有名な一条戻り橋が由来なのだろうか。
誰が言い出したものかは知れなかったが、『戻り橋』と言えばこの橋のことだと、ここを訪れる者は皆わかっていた。
優美な赤い欄干を辿って、橋の向こうへ一歩でも入れば、そこは既に俗世ではない。
独特のルールと、治外法権がまかり通る現代の遊郭。
『淫花廓』。
限られた人間だけが足を踏み入れることのできる、彼の楼閣が佇む場所なのである。
『淫花廓』。
そこは、あらゆる意味で特別であった。
まず、この廓の客になること自体が、難しい。
社会的地位と、財産。そられを満たしていなければ、『戻り橋』を超えるどころか、この廓の場所すらも特定できないのだ。
さらに、紹介状を手に入れる必要があった。
すでに『淫花廓』の会員である人間を介し、紹介状を手にして初めて、客として扱われるのである。
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