鼓ヶ滝

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鼓ヶ滝

 ほお、これが鼓ヶ滝か。なるほど見事な滝だな。 崖の上方から直下する水は、生きているかのように生命力に満ちている。 滝の上半分はようやく高くなりかかった陽の光を受けキラキラと輝く。周囲は瀑声で満ちているのであるが、不思議にひっそりとした印象を抱かせる。 水しぶきにぬれてすべり易くなった石ころだらけの川岸を、ゆっくりと進んだ。  うん、下から見上げるとすごい迫力だ。 滝つぼに流れ落ちる水が、確かに少し高いトーンで鼓の音(ね)を思わせなくもない。その音が周囲を取り囲む岩肌に反響し合って、おんおんと共鳴している。  こいつはいい歌が詠めそうだ。鼓ヶ滝も日本一の歌詠みの俺に詠まれるのを  待っていたことだろう。よしよし、これまでに誰も詠んだことがないような見事な  歌を詠んでやるからな、少し待っていろ。なあに、俺にかかればさほど時間も  かかるまい 滝から流れる川に沿って、大きな岩がいくつも転がっている。すべすべとした岩もあれば、ごつごつと鋭角をむき出しにした岩もある。 川下を振り向くと少し離れたところに手ごろな岩があったので、それに腰を掛け、懐から懐紙を出した。 さすがに寒い、手がかじかんで指先がうまく動かない。     
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