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ある少女の世界の救済を、と。
メフィストフェレスはまた嗤ったが、その時は請け負った。
美品にしか執着しない朝霧が幸福を願う少女。その存在がメフィストフェレスには興味深かった。一度見たことはあるが痩せて貧相なただの小娘にしか見えなかった。あれでは朝霧とは釣り合うまいと。だが朝霧は釣り合いという狭隘な事柄には頓着しなかった。朝霧の蒐集家の目は、彼女の真価を見抜いていた。
今度はトルコ石の緑色版といったバリッシャー石を手に取りながら、朝霧は言う。
「綺麗だよ、彼女は」
「朝霧、その台詞、〝とまれ、お前は本当に美しい〟にアレンジして」
「アレンジじゃないし、嫌だよ。それ言ったら魂盗られるのはファウストだろう?」
「……キャラメルをくれよ。塩キャラメルを」
「はいはい」
朝霧は常備してある箱入りの塩キャラメルをメフィストフェレスに渡してやった。メフィストフェレスは、甘さと塩気が絶妙に絡み合うこの菓子の虜になっていた。天鵞絨ビロード張りの分厚い本を開く朝霧を眺めながら、くちゃくちゃと音を立てて咀嚼する。
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