現実

2/2
前へ
/8ページ
次へ
そこは、にぎやかな商店街が広がっていた。 今だけセール、と大きな声や、子どものはしゃぎ声が聞こえてくる。 俺はすぐに後ろを振り返ったが、ドアや部屋、ラパレルはいなかった。 商店街を見渡す。 部屋のときは不思議な、いや、幻想的な様子が感じられ、これは夢なんだなと思っていたが、この商店街は何一つ現実味が欠けていない。 夢だと思っていたものに少しでも邪念を入らせてしまうと、これはまさか現実ではないかと心の隅で思い始めてきた。 すぐさまカバンの中身を確認した。 札束はごろごろ入っている。 部屋でのやり取りが本当だとすると、夢なんかじゃなく、札束はちゃんと自分のものになったということ……。 何だか、周りの人に自慢したくて堪らなくなってきた。 俺が道を歩けば軽蔑の眼差しを向ける者、店で買い物すれば怪しい目で見てくる店員。 今が好機。 洋服屋の鏡を見て、容姿のチェックだ。 服装はいつもの古びたシャツ、髪はぼさぼさで、不潔そのものだった。 「これは何とかしなければ……」 服を適当に買い、トイレにこもって着替えをした。 身に付けている物が変わるだけで、人は変われる。 俺はすっかり見違えた紳士の姿で、町を歩いた。 いやー、女性の俺を見る顔といったら! お金と容貌に浮かれながら、商店街を満喫した。 でも、よくよく考えるとここは現実。 俺は商店街に転移したことになる。 寝ている間に誰かがここまで誘拐してきたのだろうか。 だとしたら、カバンと札束は……。 何か頭の中がぐちゃぐちゃになってよく分からなくなってきた。 もういったい全体何なんだよ……。 俺は途方に暮れる。 金だけあっても、所詮前みたいな楽しい時期には戻れないんだ。俺は空しく下を向いて歩くことしか出来ないのか。 そういえば、俺の家はどうなってんだ? はっと思い出す。 スマホも何も持ってない。 地図も持ってない。 周りを見ても、ここがどこだか分かるような表記が見当たらない。 本当に、何なんだここは……。 金なんて全部やるから……誰か俺をここから…… 助けて━━
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加