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そこは、にぎやかな商店街が広がっていた。
今だけセール、と大きな声や、子どものはしゃぎ声が聞こえてくる。
俺はすぐに後ろを振り返ったが、ドアや部屋、ラパレルはいなかった。
商店街を見渡す。
部屋のときは不思議な、いや、幻想的な様子が感じられ、これは夢なんだなと思っていたが、この商店街は何一つ現実味が欠けていない。
夢だと思っていたものに少しでも邪念を入らせてしまうと、これはまさか現実ではないかと心の隅で思い始めてきた。
すぐさまカバンの中身を確認した。
札束はごろごろ入っている。
部屋でのやり取りが本当だとすると、夢なんかじゃなく、札束はちゃんと自分のものになったということ……。
何だか、周りの人に自慢したくて堪らなくなってきた。
俺が道を歩けば軽蔑の眼差しを向ける者、店で買い物すれば怪しい目で見てくる店員。
今が好機。
洋服屋の鏡を見て、容姿のチェックだ。
服装はいつもの古びたシャツ、髪はぼさぼさで、不潔そのものだった。
「これは何とかしなければ……」
服を適当に買い、トイレにこもって着替えをした。
身に付けている物が変わるだけで、人は変われる。
俺はすっかり見違えた紳士の姿で、町を歩いた。
いやー、女性の俺を見る顔といったら!
お金と容貌に浮かれながら、商店街を満喫した。
でも、よくよく考えるとここは現実。
俺は商店街に転移したことになる。
寝ている間に誰かがここまで誘拐してきたのだろうか。
だとしたら、カバンと札束は……。
何か頭の中がぐちゃぐちゃになってよく分からなくなってきた。
もういったい全体何なんだよ……。
俺は途方に暮れる。
金だけあっても、所詮前みたいな楽しい時期には戻れないんだ。俺は空しく下を向いて歩くことしか出来ないのか。
そういえば、俺の家はどうなってんだ?
はっと思い出す。
スマホも何も持ってない。 地図も持ってない。
周りを見ても、ここがどこだか分かるような表記が見当たらない。
本当に、何なんだここは……。
金なんて全部やるから……誰か俺をここから……
助けて━━
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