バレンタインにもらったものは

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「あのっ、堂島くん! これ、もらってください!」  そう言って内村絵美が俺に差し出したのは、小さな紙袋だった。  なんの変哲もない、茶色の紙袋。可愛いデコレーションがある訳でもなく、おまけに「ケンミンドラッグ」なんて店名が安っぽい朱色で印刷されているような、本当にどこにでもあるやつだ。  内村は可愛い。クラスで、いや学年でもピカ一じゃないだろうか。長い黒髪、大きな瞳、そしてちまっとした身長。本人は意識していないっぽいが、虎視眈々と彼女を狙っている男子を俺は山ほど知っている。もちろん、俺もその一人だ。  そんな内村が差し出した紙袋。  場所はバレンタインデーの放課後の教室。  もうだれもいなくて、窓からはほんのりと薄紅色に染まった夕空が机の影を長く伸ばしていて。そんな少女マンガみたいなシチュエーション。期待するなっていう方が無理だろう。 「あのっ、中にて、手紙が、入ってますから! あ、後で読んで」  内村は夕焼けの中でもわかるくらいに真っ赤な頬をして俺の手に紙袋を押し付けると、そのまま脱兎のごとく教室を駆け出して帰ってしまった。  俺は呆然としていたのもあり、お礼の一つも言えなかったとしばらくしてから気がついた。
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