1人が本棚に入れています
本棚に追加
すっかり日の暮れた街をフラフラ歩いて「ケンミンドラッグ」にたどり着く。このあたりにはここしかドラッグストアがない。内村が【クマヘルス】を入れていたのはここの紙袋だ。
自動ドアを開けて明るい店内に入った俺の目に飛び込んできたのは――――
内村絵美。
今まさに買い物を終えたであろう彼女は、真っ赤なダッフルコートにチェックのマフラー、手にはケンミンドラッグのビニール袋という出で立ちで目を見開いて俺をみている。
普段の制服姿しか知らない俺には目の毒なほど可愛い。
思わずデレっと見惚れていた俺の余裕はしかし長くは続かず、内村の目からみるみるうちに溢れ出した大粒の涙にあっという間にパニックになった。
「うっ、内村?!」
「ど、堂島くん……! ごめん、ごめんなさい!」
「待て、とりあえず話そう! うん、泣くなよ、お願いします!」
店内の人の視線が痛い。俺、何もしてませんから!
あ、ひょっとして泣くほど俺の臭いが嫌なのか? だとしたら俺のせい?
ごーめーんなさーーーい!
パニックになった俺は、内村の手をとって店から駆け出した。
大通りから一本入った道にある公園のベンチに二人で座って息を整える。何とか落ち着いてきた頃、今度は気まずくて口が開けない。重苦しい沈黙にどうしていいかわからなくて空を見上げると、思いもかけずひとつ星が流れた。
「あ、流れ星」
隣から可愛い声がした。振り返るとやっぱり内村は空を見上げていて、二人で同じものを見ていたってことになんだか感動した。
「ごめんな」
「え?」
「その……気がまわらなくて。あ、今だって俺汗だくで。臭うか?」
「え、ええっ! そんなことない、全然!」
「だから【クマヘルス】くれたんだろ?」
俺は苦笑気味に内村を見た。いいんだよ、はっきり言ってくれて。俺の恋は玉砕するが、好きな子に嫌な想いをさせて平気でいられるほど俺は嫌な奴にはなれないからな。
すると内村はみるみるうちに真っ赤になって真っ青になった。そして。
「ごめんなさいいいいいっ!」
急にベンチに正座して、俺に向かって土下座した。
最初のコメントを投稿しよう!